鉄道会社がターミナル駅で百貨店を運営する理由
こうした方向性が業界の激変につながっているようだ。好調な百貨店と消えていく百貨店にはひとつの法則がある。百貨店は大きく分けて、小田急百貨店や京王百貨店など私鉄グループの「電鉄系百貨店」と、呉服店をルーツとした高島屋や伊勢丹のような「呉服店系百貨店」があるが、先述したように前者は旧電鉄系も含めて次々と閉店や規模縮小となり、後者は絶好調となっているのだ。その理由について、中井氏はこのように指摘する。
「おおざっぱな言い方をすると『本業か本業じゃないか』ということが大きな理由でしょう。鉄道会社がターミナル駅で百貨店を運営する最大の理由は、商業サービスを駅の利用者に届けることで沿線価値を高めるためです。しかし、かつての百貨店は休日に家族で出かけ、買い物をしたり、子どもが屋上遊園地で遊んだりと庶民が楽しめる場所でしたが、現在は高級なイメージで敷居が高くなり、家族連れは手ごろな商品やサービスがそろった郊外のショッピングセンターなどに流れています。ファミリー層から支持されなくなった百貨店は沿線価値を高めるものではなくなりますから、鉄道会社としては無理に続けていく必要がない。巨大な鉄道グループにしてみれば、百貨店がなくなっても大きな問題はありませんし、それより大衆向けの商業施設に変えたほうがいいわけです。一方、呉服店系の伊勢丹や高島屋は百貨店が本業ですから、売上を出せなければ会社の存続にかかわる。ですから、富裕層の顧客獲得やリアル店舗とECサイトのシームレス化などを進め、必死に売上を伸ばそうとしてきた。そうした戦略の違いが、呉服店系百貨店の大勝ちと、電鉄系百貨店の総負けともいえる現状につながっていると考えられます」(同)