なによりも着目するべき重要な点は、この周波数域には安全上重要な機器がなにもないということである。

ところで、この加速度を表すガルという単位がわかりにくいといわれる。例えば自動車レースのF1でカーブではかなりの横G(ジー)がかかるなどといわれる。この横Gというのは横方向への揺れを表す加速度で、1Gは980ガルである。また980ガル(1G)は、私たちの日常で物を落とした時の加速度である。

なお、地震の揺れは水平2方向(南北方向、東西方向)と垂直方向で評価される。今回観測記録から算出された値が推定値を上回ったのは東西方向についてのみであり、南北方向と垂直方向には問題はなかった。

【ポイント2】“新”基準地震動は1000ガル

さて、今審査中の2号機の新基準地震動は、1000ガルに設定されている。基準地震動1000ガルを想定して審査が進行中なのである。

ポイントは、この1000ガルという新しい基準地震動のもとでの設備の揺れがどのような値になるのかである。

図2 新基準地震動1000ガルでの設備の揺れのイメージ

図2には新しい基準地震動として1000ガルを設定した際に設備の揺れがどのようになるかそのイメージを赤線で書き込んで見た。これはあくまでイメージであって正確なものではないことを断っておく。繰り返すが、1000ガルでの設備機器の揺れのデータはまだ公表されていない。

地震の専門でない素人目には、基準地震動が600ガルから1000ガルに引き上げられれば、新しい「揺れの推定値」は今回の観測記録による算定値を余裕で上回りカバーされるのではないかと思う。

しかし、地震の専門家によれば、それはきちんとした評価をしない限り軽々な物言いはできないとのことである。

一般住宅の耐震は2000ガル以上!?

私がこれまで関わった公開討論の場で出会った地震が専門だと称する学者や、先の「止めた裁判官」の樋口さんなどがしばしば引き合いに出すのが、一般住宅は2000ガルの揺れにさえ耐える。それを考えれば、600ガルや1000ガルでは全く物足りない甘すぎる——すなわち原発は巨大地震で壊れる!という理屈である。

実際、例えば、セキスイハイムは2,112ガルの耐震試験に200回耐えたとされる。住友林業は3,406ガル、三井ホームに至ってはなんと5,115ガルに耐えたという実験結果があることになっている。

また、日本でこれまでに観測された最大地震動は4,022ガル(2008年6月、岩手・宮城内陸地震)である。

【ポイント3】基準地震動(基盤の揺れ)と住宅・設備の揺れ

原子力発電所は強固な岩盤に直付けされて設置されている。一方、一般の住宅は岩盤に直付けされてはおらず、住宅とその地下深くにある岩盤との間には表層地盤がある。表層地盤は地層面近くに堆積した地層(土、砂利、石など)であり岩盤に比べて柔らかい。地震の波は固い岩盤から柔らかい表層地盤に伝わった時に増幅され地震動が大きくなる(図3)。

図3 一般の建物と原子力発電所の地震の揺れの構造的違い出典:電気事業連合会

つまり、震源が同じであっても原発と一般の建物では実際の揺れの強さ、つまりガル数が大きく異なることがあるのである。

例えば、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、宮崎県築館町で2,933ガルが観測された。対して、女川原子力発電所では1号機の原子炉建屋地下2階(図3のBの岩盤にくっ付いている箇所)で観測された地震動、つまり基盤の揺れは567ガルであった。

【間違えてはいけない2つのポイント】

以上で見てきたことから、「地震によって原発は壊れる」だろう!と声高に主張する方達の盲点は、二つあるといえる。

一般の建物の耐震強度と原発の耐震強度(基準地震動)は直接比較できない 原発の基準地震動と原発の機器や設備の揺れは別物である 志賀原発——なにが隠されているのか

日本各地で地震が頻発している。日本は地震活動期に入ったとも言われる。大きな地震が起こるたびに原発の安全性が問われる。原子力規制当局そして事業者はその都度所掌範囲内での説明責任を果たそうとしている。今やなにも隠されていないし、隠す必要もない。

しかし、いかんせん情報発信をしていても、なかなかそれは善意ある人々に届いていないケースが多い。それは冒頭で触れた大竹まこと氏のラジオ番組でも明らかだ。原子力規制庁の発表したデータや電気事業連合会が今回開設した特設サイトまではなかなか目が届かないのである。

電気事業連合会が今回開設した特設サイト

なかでもここで触れたような地震の問題は、真っ当な解釈をするにはなかなか手強いところがある。その結果生半可な解釈や、場合によっては意図的な都合の良い解釈が流布しまかり通るケースがある。

関係者は「丁寧」で粘り強い説明を続けて行くことが求められている。その意味では、ことさら地震の専門家、原子力の専門家の責任は重大である。専門家がだんまりを決め込んでいると〝何か隠しているのでは?〟と憶測を呼ぶ。

能登半島地震を契機に、メディアでは慎重派の学者や専門家が次から次へと〝原発は危険だ〟との発信を重ねているのであるから。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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