ここまで、世の中の選挙を巡る盛り上がりとは逆に、選挙による民主主義の危険性について述べて来た。世間では、あまりにナイーブに、選挙の功罪の“功”のばかりに注目が集まり、“罪”のことがほとんど一顧だにされていないからである。
私は、派閥政治や密室政治が素晴らしいと言うつもりは毛頭ないが、実際問題として、なぜ、派閥の長たちなどにより、時に密室で、次の総裁についての話し合い・調整・駆け引き・妥協などが行われてきていたかというと、それは事後の運営を円滑に進めるため、過度の血みどろの争いを避けるための知恵だからである。本質的には、企業で前の社長が次の社長を様々調整して決めたり、役所で事務次官(事務方トップ)をOBその他の有力者と調整しながら決めたりしている現実と何ら変わりはない。
ただ、もはや主な派閥は解体し、全てはガラス張り・透明化が素晴らしいとされ、こうした密室での調整は今や許されない。これから各党では、恐らく共産党と公明党を除き、今回の自民党や立憲民主党が基本的にガチの選挙でトップを決めていくしかない。
そうした中、では、一歩進んで、この“罪”の部分を補うには、どのような方法があるであろうか。これまた「ナイーブ」との批判はあろうが、結局、当事者や有権者、ひいては国民の良識に頼るしかない。例えば幸い今回の候補者の皆さんは、最終学歴が大学院だったり、難関大学だったりしていて、少なくとも政治学のイロハを学んできている人たちである(例えば東大が6名、ハーバード大大学院が5名いる)。
ナイーブな民主主義や選挙の危険性を十分に熟知している人たちであり、選挙後の振る舞いに期待したいとは思う。とはいえ、これだけでは心もとない。有権者や国民もこのことをよく意識して日本の民主主義を構築していくべきであるし、政治家にプレッシャーを与える行動も期待されるところだ。
筆者はこの春から、ハーバード・ケネディスクール日本人同窓会の3人の理事の1人に就任したが、今回の自民党総裁選の立候補者・立候補予定者には、茂木敏充氏、上川陽子氏、林芳正氏(同日本人同窓会会長)、齋藤健氏、小林鷹之氏、と5名のケネディスクールOB・OGが名を連ねている。