ブラック企業を象徴しているように見られる歩合給だが、制度自体が問題ではなく取り入れる企業風土や導入手法に問題があればブラック企業となる。

ではどの様な会社をブラック企業と疑うべきなのか? 見分けるポイントを3つ挙げてみよう。

(前回:ビッグモーターの異常なトラブルから考える、正しい歩合給)

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1. 違法な歩合給を導入していないか?

「歩合給は違法だ!」と主張する方がいる。正しくは「保障給のない完全歩合給は違法」である。なお「完全歩合給」とは基本給などの固定給が全く支払われず、給料の全てが成果に応じて支払われる賃金制度である。

そのような完全歩合給でも、保障給を適切に導入すれば合法だ。極端な言い方をすれば、基本給が0円でも即違法という訳ではない。

それでは保障給とは何か? 車の営業マンで例に上げたように、1台1000万円のベンツを売った営業マンが、売上の10%を給料として受け取る「完全歩合給」で契約していたとする。その月の給料は100万円だから悪くない契約だろう。

しかし翌月は運悪く1台も売ることが出来なかった。1台も売れなかったら支払う給料が0円で良いのか?当たり前だがこれは完全に違法だ。

今の日本の法律では、働いた時間に応じて一定以上の賃金を支払う必要がある。働いたのに全く賃金が支払われないことは違法行為だ。

しかしそんな完全歩合給でも保障給を設定すると合法になる。保障給については労働基準法第27条に記載がある。

「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」

この条文の出来高払制というのがいわゆる歩合給である。売上などの成果で賃金を支払うのは良いが、労働時間に応じて賃金保障を設ける義務がある。仕事をしたのに成果が上がらなかったという理由で賃金を支払わないことは違法と明確に定めてい。

歩合給に必要な保障給と最低賃金の関係

保障給の目安はどの程度で設定すれば良いのか? 実はこの目安は明確に定められていない。ただ、参考になる通達があるので紹介する。トラックドライバーなどの自動車運転者向けに出された平成元年基発第93条だ。

「歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとすること」

成果が全く上げられなかった社員でも、通常の賃金の6割以上を保障することとしている。この通達は自動車運転者向けの通達だが、営業マンなどの他の職種の社員にも適用して問題ないだろう。

歩合給を導入している会社でも、賃金規程や雇用契約書で保障給の記載がない会社はブラック企業として疑って良いし、そもそも違法状態である。ただし、基本給などの固定給部分で通常の賃金の6割以上が十分保障されている場合は、保障給の記載が無くても問題がないのでその点は気を付けてもらいたい。

歩合給が違法かどうかを判断する際に、最低賃金額にも注目する必要がある。最低賃金は各都道府県で異なり、毎年10月前後に見直される。最低賃金を下回っている会社は違法状態である。そのような会社は当然ブラック企業だ。

2. 残業代をちゃんと支払っているか?

経営者と話していると、残業代に関して誤解が多いことに驚く。

「うちの会社は歩合給に残業代が含まれているから残業代は出ないよ」 「営業マンは時間に縛られない働き方だから営業手当を支払っている。これが残業代だからね」 「あなたの賃金は年俸制です。年俸制だから当然残業代は出ませんよ」

基本的には全て違法である。ただし、2つ目の営業手当を残業代として支払うという手法は、いくつかの条件をクリアして、適正に取り入れれば合法になる可能性を残すが、中小企業でそういった条件をクリアしている会社は圧倒的に少ない。

1つ目の手法は、トラック会社やタクシー会社で現在でも数多く取り入れられている手法である。ただ、令和5年3月10日の「熊本総合運輸事件」令和2年3月30日の「国際自動車事件」。この2つの最高裁判決で、立て続けに否定されたことを考えると「歩合給を残業代として支払っている」という会社側の主張は今後厳しくなると考えられる。

面接などの際に何らかの理由で「残業代が出ない」と説明を受けた場合は、よほどしっかりとした賃金体系を作っている会社でない限り、ブラック企業だと考えて良いだろう。