しかし一方で、本件は「行きすぎたポリコレマター」という文脈で取り上げられることが多く、問題が大きく顕在化したのもここ数年のことであったため、「民主党時代の失策」ととらえる認識が広まった。実際、野に下っていたトランプが、万引き犯は射殺すべきだという趣旨の演説をし、「弱腰の民主党と、強い指導力の自分」を誇示したのも、象徴的なできごとであった。

日本の民主主義の今後

翻って、日本である。

我が国はいうまでもなく、少子高齢化による生産年齢人口の減少や、原材料価格の高止まりによる物価高と個人消費の低迷等を原因とする景気後退が慢性化している。

加えて、刑法犯罪の認知件数も2022年から増加し続け、本年も上半期ですでに前年同期比で1万7,550件増加し、35万350件となっている。

外国人の不法在留者数も8万人を超えようとしており、「不法に在留している」つまり、在留を認知できていない外国人による犯罪も、増加の一途をたどっている。

景気の慢性的後退、犯罪発生率の増加、社会不安。それらを一気に解消する魔法の杖は存在しないという閉塞感。「水と安全は無料」といった呑気な標語がまかり通った時代は、すでに終わっている。そして、政治と金の問題による政治不信の蔓延。

私は、21年に書いた論考において、政治を「自分が属す社会に対する納得感を得るための権力装置」と定義した。国、地方を問わず、政治の現場において、その「納得感を得るための前進」があっただろうか。民主主義を深化させる努力が、実っているといえるだろうか。

日本が「民主主義的」な政治体制を崩すことは、当面は考えにくいかもしれない。しかし、このまま「惰性の政治状況」が続けば、国民の政治に対する納得感はさらに低下するだろう。

そんなとき、世界では民主主義の皮を被った「専制化した人物」を国の代表に選ぶことを、私たちはここ20年という時間の中で学んだはずだ。