クマムシが乾燥耐性を進化させた理由は明らかでした。
クマムシは主にコケや地衣類の表面など湿った環境のなかで、単細胞植物を食べながら生活しています。
しかしコケや地衣類が表面に保持している水分量は極めて不安定であり、しばしば乾燥によって表面の水分が完全に失われることがあります。
そのため逃げることができないクマムシは、長期間にわたる乾燥を生き延びる術を進化させたのです。
同様の乾燥耐性は、僅かな水分をよりどころに生きているワムシや線虫など他の生物にも確認されています。
彼らは地球上のあらゆる湿った場所に住み着いており、氷河表面(の僅かな水)のような場所ですら生活することができます。
そして彼らに対する研究が進むにつれて興味深い事実が判明しました。
ワムシや線虫などの乾燥耐性がある生き物にはクマムシ同様に、強い放射線や凍結に耐える能力があったのです。
この奇妙な一致は、乾燥に対する耐性が放射線耐性や凍結耐性と連動している可能性を示します。
どうやら生物の細胞にとって「乾燥」とは、単に水分がなくなること以上の何かがあるようです。
細胞が乾燥するとき、いったいどんな変化が起こるのでしょうか?
クマムシ遺伝子のヒト細胞への導入がはじまっている
細胞が乾燥すると何が起こるのか?
20世紀の後半になると、乾燥した細胞に起こるダメージの詳細が明らかになってきました。
乾燥した細胞では単に表面にシワやひび割れを起こすだけでなく、細胞内のタンパク質が変質を起こして、機能が停止してしまいます。
また乾燥が進むと細胞内に残った残った水は水素(H)と水酸化物(OH)に分解され、ラジカルと呼ばれる有毒な化学物質を発生させ、DNAを破壊することが明らかになりました。
クマムシが生き残るには、何らかの方法でDNAへのダメージを防がなければなりません。