では、ジューシーに仕上げるにはどうすればよいのでしょうか。

そのカギは、適切な温度と時間にあります。

例えば、ステーキを焼く場合、150℃から200℃で焼き時間を短くすると、外側がカリッとし、内部の水分を逃さないように仕上げることができます。

低温調理にも化学反応が隠されていた
低温調理にも化学反応が隠されていた / Credit:Canva

一方、低温調理を行うと、タンパク質の変性がゆっくり進むため、筋繊維が少しずつ縮み、水分が保持されやすくなります。

その結果、肉はしっとり柔らかくジューシーに仕上がります。

また、低温調理では、肉に含まれる酵素も活躍します。

カテプシンやコラゲナーゼといった酵素が、硬さの原因となるコラーゲンをゼラチンに変化させ、肉がほろほろと崩れるような柔らかさになります。

ゼラチンは水分をしっかりと保持してくれるので、煮込み料理やスープの中で、肉がしっとりとした食感を保てる理由もここにあります。

ただし、酵素は加熱しすぎると働かなくなります。

70℃を超えると酵素は失活し始めるので、低温でゆっくりと調理することが大切です。

さらに、肉には脂肪も含まれており、この脂肪もまた食感に大きな影響を与えます。

低温で脂肪がゆっくりと溶けると、しっとりとした柔らかい仕上がりになりますが、高温で調理すると、脂肪がカリッと焼けて香ばしさがプラスされます。

焼き肉やステーキで「外はカリッ、中はジューシー」という絶妙なバランスを楽しめるのも、この脂肪の変化が関係しています。

見た目と風味に影響を与える化学反応

ステーキを焼いた時の、香ばしい香りと食欲をそそるきれいな焼き色。

これらは、肉を加熱したときに起こるメイラード反応によるものです。

これはフランスの医師で化学者でもあったルイ=カミーユ・マヤール(Louis Camille Maillard )は、1912年にに発見した現象です。

メイラード反応は、肉の表面にあるアミノ酸と糖が高温で反応することで起こり、パンの焼き色やクッキーの香ばしさにも関わる、普段の料理でもよく見られる現象です。