ショルツ連立政権の終焉というニュースが伝わると、ドイツ国民の多くは「予想されたことで驚かない。連立政権内で常に対立を繰り返してきたので、政権の崩壊は時間の問題だった」と受け取っている。民間ニュース専門局ntvが路上でインタビューしていたが、「連立政権が崩壊して残念だ」という声は聞かれなかった。ショルツ政権は与党3党内で路線や政策の相違から対立を繰り返してきた。ただし、その度に3党はこれまで互いに譲歩しながら政権の危機を乗り越えてきた。今回の政権崩壊をもたらした直接の経緯はリントナー財務相が発表した通称リントナー・ペーパーだ(「『リントナー・ペーパー』の衝撃」2024年11月5日参考)。

ドイツのショルツ連立政権は社会民主党(SPD)、「緑の党」、自由民主党(FDP)の3党から成るドイツ政界では初の試みだけに、その進展に注目されてきた。というより、いつまで連立政権が維持できるか、といった懸念があった。なぜならば、経済政策、安保政策から社会保障問題まで3党の政治信条は異なるからだ。国民経済は現在、リセッション(景気後退)に陥り、輸出大国ドイツの製品はその魅力を失いつつある。そのような時、FDP党首のリントナー財務相は国民経済の活性化のために提案書(リントナー・ペーパー)を発表したのだ。

「リントナー・ペーパー」は①規制の簡素化と官僚主義の削減、②連帯付加税の廃止、③気候目標とエネルギー政策の見直し、④経済政策の方向性の明確化、⑤成長促進政策の必要性を訴えている。その内容は、SPDと「緑の党」の経済・環境政策とは相反するだけに、ショルツ政権の土台が大揺れとなったわけだ。

リントナー財務相がこの時期にショルツ首相に「離婚宣言」を出した背後には、9月に実施された東部3州の州議会選でFDPは壊滅的な結果を受け、次期連邦議会選挙で議席を維持できるためには、連立から離脱して党勢を立て直す必要が出てきたからだろう。国民の支持を失ったショルツ船に沈没するまで乗っていたら、FDPはひょっとしたら連邦議会から完全に姿を消すかもしれない。そんな危機感がFDPの党幹部たちに出てきたのだ。