大きな責任は、政治報道をする政治部記者にあります。先週の全国紙の見出しは「解散は総裁選以降に」「首相調整、信頼回復に注力」(準トップ、4段、読売)でした。時事通信の世論調査で岸田政権支持率が16.4%まで低下し、この不人気では解散・選挙などできるはずはありません。
本人は解散権を持っていることをちらつかせておけば、脅しにはなるといった程度の計算はしていたのかもしれません。その解散なんかできないことは本人が一番よく知っているはずです。ありもしない解散をさもあるかあのように記事で書き、首相が見送り発言をすると大扱いする。ばかばかしい政治ジャーナリズムです。
日銀の慎重すぎた、びくびくした金融政策を見て、21日、円は1㌦=159円程度まで円安になりました。物価がまた上がることのほか、国際公約の防衛予算のGDP比2%達成のために、2027年度までに43兆円(22年度に決定)の積み増しを決めています。その後の円安で、ドル換算で3割も減価しました(日経)。
米国から調達するステルス戦闘機は1機あたり116億円の想定が140億円に、イージス艦の取得費は2400億円の想定が3920億円に跳ね上がった(日経)。政治資金の裏金の規模よりはるかに大きい。
日銀が7月に国債購入額(現在月6兆円)を減らし、量的引き締めに舵を切る構えです。異次元金融緩和の正常化は財政状態の正常化と一体でなければ進まない。野党は自公政権に、財政政治正常化を制度的に監視する「財政独立機関」の設立を突き付ける好機なのに動かない。こういうのが「大きな政治」なのです。
野党は失点稼ぎの「小さな政治」ばかりに執着し、「大きな政治」の論戦を仕掛けない。国民が関心を持っているのは「政治資金の流れを正常化し、その上に立ってどのような政策選択をしていくか」にあります。
政治ジャーナリズムが得意とする「岸田首相の外遊中に、麻生、茂木氏が会食し、両者の亀裂が深まった」、「岸田首相が帰国後、やっと麻生氏と会談できた」といった類の話よりも、本質的なテーマを据えて政治報道をしてほしい。
政策論そっちのけで、「誰と誰が会った」、「誰と誰の亀裂は修復できるのか」といった『永田町新聞』的な報道から脱皮を望みます。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年6月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。