ということで、この分野の専門家の方で、映画に登場する科学者の多くと直接お会いされています。

世の中では悪者にされているオッペンハイマーを様々な資料や証言を調べて、中立的な立場でオッペンハイマーの世間での一般的なイメージを覆しておられます。生まれた時から62歳で亡くなられるまでのオッペンハイマーの軌跡を詳細に知ることができます。

特にマンハッタン計画でのウランとプルトニウムの2種類の原爆の開発とトリニティー実験のこと、ロス・アラモスでの葛藤、そして映画にはない聴聞会後の水爆への反対に関することなど、詳細に、しかも時系列的に当時の様子が克明に理解できる本でした。

そして、原爆という「悪魔」を生み出したのは、学問としての「物理」が悪いのか、「物理学者」が悪いのか、それともそれを使用する決断をした「指導者」が悪いのか、その「指導者を支持した人々」が悪いのか、科学技術と善悪について色々と考えさせられました。

僕は日立製作所で原子力の平和利用の原子力発電に使う核燃料の研究開発をしていた1990年代に、ロス・アラモス、ハンフォード、オークリッジと、原子力に関する三大研究所を訪問したことがあります。しかもプルトニウムを発見した、グレン・シーボーグ博士とも国際会議で直接核燃料の研究で議論した経験があります。その経緯は以下のYouTube動画にしています。

【ノギタ教授の軌跡-2】あの歴史上の超大物研究者との出会いが僕の人生を変えた!

今回、「ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者」を読んで、シーボーグ博士とマンハッタン計画、オッペンハイマーとの繋がりなど知らないことばかりだと気付かされました。

往路での一回目の映画鑑賞では、訳がわからず寝落ちしてしまいましたが、復路での二回目の鑑賞では、読書直後だったので、聴聞会の場面も、激しく時代が飛ぶ各エピソードも、各エピソードで登場する科学者たちとのやりとりも100%理解できて、映画をじっくり観ることができました。

ところで映画では、若き学生のファインマン博士は登場するのですが、シーボーグ博士は登場しません。トリニティー実験でのプルトニウムの爆弾だけでなく、オッペンハイマーが「赤狩り」に遭ったあとの名誉回復にもシーボーグ博士は大きく関わっているにもかかわらず、映画に登場しないのは何故だか釈然としないままの状態でいます。

もうすぐ公開される日本での上映では、日本語吹き替えがあるのか、字幕なのか分かりませんが、会話が早口でしかも場面が目まぐるしく変わるので、皆さんもぜひ事前に『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』を読んでおくことをオススメします。映画に恐ろしいほど没頭できること請け合いです。

豪州クイーンズランド大学・機械鉱山工学部内の日本スペリア電子材料製造研究センター(NS CMEM)で教授・センター長を務めているノギタ教授のYouTubeチャンネル「ノギタ教授」。チャンネル登録よろしくお願いいたします。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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