障害者差別解消法上の合理的配慮・過重な負担と労働法体系の努力義務
障害者差別解消法上、「負担が過重でないとき」には、障害者の社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をすべき努力義務が事業者に課されています。
他方で、労働法体系上、腰痛等の労災を防止する観点から、男性が運搬する物の重量の上限は体重の40%以下、女性職員はさらに男性の60%以下とすることが努力義務となっています。さらに、これは平坦な道において物を運搬する場合であり、人を持って階段昇降させることは推奨されていません。
転倒やすべり等によるケガのリスクを避けるために以下の通達があります。
「女性スタッフ2人で階段を持ち上げ」:腰痛や転倒による怪我のリスク足下について視界が遮られたり、両手がふさがるような体積のかさばる物や重量物を持った階段昇降はできるだけ避け、エレベータ、クレーン、階段昇降機等を利用する。
中嶋涼子氏の投稿では「女性スタッフ2人で階段を持ち上げ」とありました。
これは労働法体系的には努力義務に反しており、障害者差別解消法上の「過重な負担」であると言えます。
彼女のSNS投稿を見るとどうやら折り畳み式の車いすのようであり、伊是名夏子さんのような100kg級の電動車椅子ではありませんから、車いすを含めた彼女の体重はせいぜい60kgでしょう。それでも平均的な女性の場合は4人以上が必要になる計算です。
つまり、これはスタッフの怪我のリスク+事故のリスクが高い危険な行為です。のみならず、中嶋氏の身体にも危険がある行為ということになります。上映後に「4人がかりで」というのは、被介助者と従業員の安全が確保できる人数だからでしょう。
個人的な体験として、構造上エレベータが無い結婚式場で車いすの参列者を男性スタッフが3~4人がかりで持ち上げて階段を登っていく場面を見たことがありますが、あれを女性にやらせるのは危険すぎると思います。
1回限りで緊急性が高く参加時間が予め決まっていて常に準備が可能な結婚式ならともかく、日常生活上で頻回に発生し不定期に利用されることが想定される場合、実施に際して安全側に寄った対応をすることは理解できます。たとえ4段の階段という短い間であっても。
女性が多く、同時稼働できる男性スタッフが少なかった、階段昇降のための設備・器具が無かったという事情があったのかもしれません。
イオンシネマシアタス調布では説明の仕方が不適切・設備の改善かただ、彼女のSNS投稿の限りでは、従業員による説明の仕方が不適切であり、このような反応を引き起こしてしまったことに一片の落ち度はあると言わざるを得ないのかなという感想です。
現に当のイオンシネマズの声明では「不適切な発言」「設備の改善」とあり、人員不足で対応困難だった事情は考慮されるものの、説明の仕方でどうにでもなったのではないか?と予測されるようなものになっています。
もちろん、表には出てこないような細かい背景事情があるかもしれません。が、そういうミクロな事実関係というのはオフィシャルでは捨象されるのが常です。
イオンシネマズの従業員らに対する非難を第三者が行うのは慎むべきと思います。