バイデン政権について分析するにあたって、労働組合との関係は必須だ。
2021年9月8日Labor Dayの式典演説で、このように発言した。
I intend to be the most pro-union President leading the most pro-union administration in American history.
バイデン大統領は、数カ月前から自らを「Pro-Union President」と表現するようになっていたが、さらに2021年9月にはっきり「Pro-Union President」になると宣言した。
日本語にするのが難しいのだが、親・労働組合の大統領、あるいは、労働組合を優遇する大統領とでもいったところだろうか。選挙戦では、「I am a Union Man.」と発言していたこともある。
2021年9月8日Labor Dayの式典では、当時のマーティ・ウォルシュ労働長官(元ボストン市長/建設労組代表団体Boston Trades Councilのトップ注1)、アメリカ労働総同盟・産業別組合 AFL-CIO(American Federation of Labor and Congress of Industrial Organizations)のリズ・シュラー議長も参加して、双方ともに演説をしていていた。
当時のマーティ・ウォルシュ労働長官は、ケネディ政権以来の労働組合出身の労働長官だ(2023年2月に辞任)。現AFL-CIO議長のリズ・シュラーが就任する前は、トルムカ氏がAFL-CIO議長(2021年に亡くなった)を務めていた。トルムカ前議長はPA州の炭鉱労働者出身でバイデン大統領とは深い仲だった。バイデン大統領は就任から1か月以内に労働組合幹部をホワイトハウスに招待して、強くアピールもしていたのだ注7)。
そして、2023年6月17日に開催されたフィラデルフィアのAFL-CIOLabor for Biden Eventは「かつて約束したようにアメリカ史上、最も労働組合を優遇する大統領になれて誇りに思っている」とまで発言したのだ。
I’m proud to be the most pro-union president in American history.
全米の労働組合参加率(2022)は、10.1%で約1400万人I promised you I would be.
組合参加率注2)は下落していると思われているが、実は公務員の参加率は1983年から30%前後と横ばいで推移している。民間部門での参加率が下落の一途をたどり2021年では6%しかなくなってしまった。しかしながら、民間部門の中でも業種別にかなりの差がある。
たとえば、職業別の労働組合参加率でみると、教員は約37%となり最も高い職業の一つだったりして、職業別にみてもかなり差がある。また、公務員の中でも連邦政府の公務員は参加率28%、州政府33%、地方政府42%と公務員の中でも差があるのだ。
また、州別では、バラつきがありNY州、ハワイ州などの労働組合参加率は20%を超える。一方で、南部エリアについてはサウス・カロライナは最も少なく2%しかない。人口が多いテキサス州も5%だ。このように州別にみても参加率が異なるのだ。
次に、労働組合の組織別参加人数をみてみよう。
労働組合の中でも最も会員数が多いのは教員組合なのだ。次いで多いのがサービス業のSEIU(特にNY州とカリフォルニア州で参加数が多い)、次が地方公務員連盟のAFSCME。もはや鉄鋼労働組合や自動車労働組合は労働組合の中でも、力がなくなっているのだ。
National Education Association(アメリカ教師連盟):300万人 Service Employees International Union(サービス従業員国際労働組合):200万人 American Federation of Teachers(アメリカ教員連盟):170万人 American Federation of State, County and Municipal Employees(米国州・郡・市職員同盟(地方公務員連名)):140万人 International Brotherhood of Teamsters(チームスターズ):140万人 United Food and Commercial Workers(全米食品商業労働組合):130万人 United Steel Workers(全米鉄鋼労働組合):120万人 United Auto Worker(全米自動車労働組合):40万人(退職者を含めても90万人)(各ホームページを2021年に確認)
さて、ほとんどの労働組合を束ねる存在であるアメリカ労働総同盟・産業別組合 AFL-CIOの歴史について少し触れておこう。
AFL-CIOは、1886年に設立されたAFL(American Federation of Labor)と1936年に設立されたCIO(Congress of Industrial Organizations)が1955年に合併したものだ。
AFLは南北戦争が終結後に設立されたもので、ニューディール以前の職業別労働組合だった。金属工、大工、鉄道員などの熟練労働者の団体で、白人が中心で極めて保守的だった。彼らは移民にも反対して、男女同一賃金にも反対していた。
一方で、CIOは、AFLに対抗してできた産業別組合だ。20世紀に入り、新しくうまれた産業である鉱山、自動車、繊維、鉄鋼などの分野で、未熟練労働者の第一世代のアメリカ人を組織化して設立された。1930年代にはデモやボイコット、座り込みのストライキを仕掛けた。
CIOは、AFLに対抗していることや、産業別労働組合として組織化するにあたって、黒人の参加が不可欠だったため彼らと手を組んだ。1937年に人種差別撤廃委員会設立までして取り組んだほどだ。
F・ルーズベルト時代の1935年、ワグナー法(National Labor Relations ACT)が可決して、労働組合を法的に規定し、労働組合の権利を保護する連邦法が成立した。これが起爆剤になり、1933年は非農業従事者の労働組合参加率が11.3%だったのが33.8%と膨れ上がり、ストが多発したのだ。
しかしながら、1947年に労働組合活動を制限するタフト・ハートレー法が成立したのだ。当時、上下院とも共和党に支配されてしまったので、トルーマン大統領は拒否権を発動させたが、再議決で3分の2を超えて可決してしまったのだ。
この時、ユニオン・ショップ協定を禁止する労働権法の制定を州に認める条項が盛り込まれた。労働者の団結、団結を生み出すストライキ、第二次ボイコットなど多数の争議行為の多くを違法とした。ストライキ権は労働者ではなく、労働組合が限定された期間にのみ実施できるとしてストライキは厳しく制限されることになった。これにより、ストライキは減少していく。
この転機により、AFLもCIOもお互いが競争関係にあったのに、すっかり弱体化してしまい1955年には手を組まざるをえなくなってきたのだ。競争しあう関係から、お互い協力しあう関係になっていったのだ。
AFL-CIOは、時代とともに変化してきた。会員数を増やし、組織化させていくにはいろんな団体を受け入れる方向に舵をきっていったのだ。1997年にはLGBTQの労働者連合「Pride At Work」がAFL-CIOに参画したり、2000年には非正規労働者を組合員として受け入れ、AFL-CIOとして初めて非正規雇用労働者の市民権取得への道を支持していった。
ある意味、労働組合側も生き残りをかけて、格差是正や移民問題、環境問題の解決など、社会課題の解決や社会正義を追求する組合活動にせざるおえなかったのだ。その活動は社会運動ユニオニズムと表現され、各地のドアノック活動などを組織化していったのだ注5)。
社会運動ユニオズムが活性化していく一方で、タフト・ハートレー法は未だに影を残している。労働組合参加率が低い州には、だいたい労働権法が存在していると思っていい。50州のうち半分の州が制定している。一方で、労働組合参加率が高いハワイ、NY、カリフォルニア、マサチューセッツ州などでは未だに労働権法が州で制定されていない。
そう、このタフト・ハートレー法の廃止こそ、バイデン政権が掲げた公約の一つなのだ注3)。もっというと、民主党候補者ほぼ全員がこの公約を掲げていた注4)。民主党政権がもっとも実現したいことの一つは、タフト・ハートレー法を廃止して、ルーズベルト時代のワグナー法を復活させて労働組合の強化と団体交渉の強化だ。民主党の重要な支持基盤を強固なものにしておきたいということだろう。
あともう一つ、労働組合について語る時に、重要な視点がある。
それは、労働組合と環境活動団体の同盟関係だ。
BLUEGREEN ALLIANCEという米国の団体をご存知だろうか。
このブルー・グリーンアライアンスは、主に労働組合と環境擁護団体で構成されている。
特に環境擁護団体については、米国の主要環境擁護団体すべてが加盟している。もちろん、労働組合についてもSEIUやAFTなど大きい団体が加盟している。