ヒルを模倣した「痛くない採血器」を開発!

チームが開発した約2.5センチ四方のカップ型の採血器はヒルとよく似た方法で機能します。

使い方も非常に簡単です。

まず、採血器を上腕か背中の平らな皮膚に貼り付けて、カップの上部を指で押し込みます。

するとカップの内側についている長さ2ミリの微細なマイクロニードルが皮膚の最上層に当たり、傷口を作ります。

このとき、注射針を刺すときのような痛みはありません。

続いて、カップを押し込むことでヒルと同じ「陰圧」が発生し、圧縮されたカップが元の形に戻るにつれて、傷口から数分かけて血を吸い上げます。

採血器の仕組み
採血器の仕組み / Credit: Nicole Zoratto et al., Advanced Science(2024)

注射針を使ったときほどの血液量は採取できませんが、正確な検査をするには十分な量が確保できます。

通常、指先や耳たぶから採取される1滴の血液量は約20マイクロリットル(μL)ですが、ブタを対象にこの採血器を使ったところ、約195マイクロリットルの血液を円滑に採取することができました。

また採取した血液を取り出すには、専用のスポイト型アダプターを取り付けます。

これを使えば、血液検査用の測定器に直接血液を落とすことも可能です。

採血した後の傷口も24〜72時間以内にはほとんど目立たない状態にまで治っていました。

2匹のブタの皮膚:左から採血前と採血直後、24〜72時間後の傷口
2匹のブタの皮膚:左から採血前と採血直後、24〜72時間後の傷口 / Credit: Nicole Zoratto et al., Advanced Science(2024)

この採血器は皮膚に貼って押すだけなので、医療の経験や知識がない一般人でも簡単に利用できます。

加えて、製造コストも安価で大量生産が可能なので、熱帯病のマラリアが多く見られるアフリカなどの発展途上国での応用に適しているとチームは考えています。

また現時点で、この採血器はシリコン製のカップ部分とスチール製のマイクロニードルでできていますが、将来的には完全に生分解性の材料に変えて、環境にやさしいバージョンを開発する予定とのことです。

あとは1回で採取できる血液量を増やすことができれば、注射針の恐怖とも永遠にオサラバできるかもしれません。

参考文献

Blood diagnostics modelled on leeches

Leech-inspired device may make for kinder, gentler blood sampling

元論文

A Bioinspired and Cost-Effective Device for Minimally Invasive Blood Sampling

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。