現在の採血方法では、注射針を皮下にプスッと刺すことで痛みを伴います。
これは子供にとって大敵ですし、大人でもあまり積極的に受けたいものではありません。
しかし自然界に存在する吸血生物は、血を奪っていることを相手に悟らせない者がいます。
そこでスイス・チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)は、吸血ヒルをヒントに「痛くない採血器」を新たに開発しました。
従来の注射針ほど多くの血液量は採れないものの、痛みがなく、素人でも簡単に利用できることが最大の強みです。
一体どのような仕組みなのでしょうか?
研究の詳細は2024年3月7日付で科学雑誌『Advanced Science』に掲載されています。
ヒルはどうやって血を吸っているの?
採血は病気の有無や原因を調べる上で欠かせない医療行為です。
ただ一般的な注射針は痛みを伴うと同時に、先端恐怖症を持つ人にとっては強い抵抗感があります。
また指先や耳たぶ、お腹などに小さな針を刺して採血する方法もありますが、これらはわずか1滴の血液を採取するのみで、正確な血液検査をするには不十分であると指摘されています。
そこでチューリッヒ工科大学の研究チームは、痛みを伴わず、正確な検査に十分な血液量を採取できる新たな採血器の開発を試みました。
チームが参考にしたのは「ヒル」です。
ヒル類にはヒトを含む大型哺乳類の血を吸う種がいます(日本に分布するヤマビルなど)。
彼らの吸血システムは私たちが血を吸われていることに気づかないほど巧みなものです。
まず、ヒルは円形状の吸盤で皮膚に吸い付いた後、中央にある小さな3枚歯でY字型の傷を付けます。
そして血を放出させるために吸盤内で「陰圧」を作ります。
陰圧とは外よりも気圧が低い状態のこと。気圧はバランスを取ろうとするので、吸盤内の圧力がゆっくりと戻る中で傷口から血が吸い上げられるのです。
その吸血量はヒルの体重の10〜20倍にも達します。
さらに吸血中は血液が固まるのを防ぐ「ヒルジン」という物質を分泌することでスムーズに血を吸い上げます。
ヒルが離れた後も出血が止まりにくいのはこのためです。
血を吸われるのは不快ではありますが、その反面、蚊のように針を体内に直接刺すわけではないので、吸血中の痛みがないですし、ヒルが何らかの病気を媒介することもありません。
ちなみにヒルに吸い付かれた場合は無理に引っ張るのではなく、塩や塩水、虫除けスプレーをかけるとポロッと簡単に剥がれ落ちます。
その後は水でヒルジンを洗い流してから絆創膏を貼ればOKです。
チームはこの吸血システムを応用して、次の「痛くない採血器」を開発しました。