新たな仮説を提唱!
チームが新たに提唱するモデルを下図を参照しながら見てみましょう。
まず、地上には永久凍土が広がっていて、先のような湖はありません。
永久凍土の下には凍っていない地層(黄色)があり、そこに何らかの地質断層(赤線)が縦に通っています。
この地質断層の隙間を通して、地下からメタンガスがゆっくりと湧出してきます。
湧出したメタンガスは永久凍土にフタをされているので地上には出ませんが、凍っていない地層の先端(ピンク)に蓄積しながら、その熱で徐々に永久凍土を下から溶かしていきます。
そして上部の永久凍土が薄い場所であれば、メタンガスの圧力が勝って暴発し、円筒型のクレーターが形成されるのです。
(ここまでの説明は図のa・bに当たり、c・dはその後のクレーターに水や堆積物が溜まった様子を示したもの)
このモデルであれば、クレーターの形成に湖は必要ありません。
それと同時に、最も重要なのは永久凍土の厚さです。
このモデルは永久凍土の層が数百メートルもの厚さの場合には当てはまりません。永久凍土が分厚いため、メタンガスを容易に封じ込めてしまうからです。
ところが永久凍土の層が数十メートルほどの薄い場合だと、メタンガスの熱と圧力で十分に崩壊させることができます。
そしてヤマル半島とギダン半島の永久凍土は厚さが地域によって大きく異なっており、場所によっては500メートルほどの厚みがあるものの、クレーターが出現した地域には20〜30メートルの薄い永久凍土が広がっているのです。
さらにヤマル半島とギダン半島は天然ガスの地下埋蔵量が多いことで知られています。
こうした「永久凍土の薄さ」や「地下の天然ガスの多さ」こそ、ヤマル半島とギダン半島の限定された地域にのみ、このクレーターが見られる理由なのかもしれません。
また研究主任のヘルゲ・ヘレバン(Helge Hellevang)氏は、形成されたクレーターは後に水や土によって埋められて地上からは確認しづらくなるため、実際はもっと多くのクレーターが同じプロセスで形成されている可能性があると指摘しました。
こちらはヤマル半島で見つかったクレータを空撮した映像です。
加えて、ヘレバン氏はこれらのクレーターは巨大な煙突のように機能して地中のメタンガスを大気中に放出してしまうため、温暖化を加速させる恐れがあると懸念します。
また温暖化が加速すると地上から永久凍土の溶解を加速させ、層の厚さを薄くします。
すると地中のメタンガスの爆発が起こりやすくなり、気候の悪循環を引き起こしてしまうかもしれないのです。
今後、深刻化する温暖化の中で、クレーターの出現頻度も高まるかもしれません。
参考文献
Mystery of Siberia’s giant exploding craters may finally be solved
The mystery of Siberia’s strange exploding craters may have finally been solved
Mysteries of Bizarre Giant Exploding Craters in Siberian Permafrost Could Finally Be Unraveled
元論文
Formation of giant Siberian gas emission craters (GECs)
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。