ロシア北部のヤマル半島とギダン半島には、8つの謎めいた巨大クレーターが存在します。
これらのクレーターは十数年前に初めて発見されて以来、科学者たちを大いに困惑させてきました。
明らかに隕石の衝突ではありえない形状をしており、どのように出現したかよく分からなかったのです。
しかし最近、ノルウェー・オスロ大学(University of Oslo)の研究チームが、謎の出自を解き明かす新たな説を提唱しました。
それによるとクレーターは永久凍土の下に蓄積したメタンガスの爆発が原因で形成された可能性が高いとのことです。
その詳しいプロセスを見てみましょう。
研究の詳細は2024年1月12日付で、査読前のプレプリントリポジトリ『EarthArXiv』に公開されています。
これまで有力視されていた仮説とは?
クレーターが存在するヤマル半島とギダン半島は、ロシアのシベリア北西部に隣同士で並んでいる半島です。
8つのクレーターは幅20メートル、深さ50メートルほどの巨大なサイズで、一般に中央部が円筒型にストンとくり抜かれたような独特な形をしています。
このようなクレーターはヤマル半島とギダン半島にしかなく、他のシベリアのどの地域でも見つかっていません。
研究者たちはクレーターが形成された理由について、隕石の衝突から天然ガスの爆発まで、いくつかの仮説を提案してきました。
その中で最も有力視されているのが「湖の干上がりによるメタンガスの爆発」です。
この説によると、8つのクレーターはかつて湖に覆われた場所にあり、その地下層から天然ガスが湧き出していたという。
しかし何かのきっかけで湖が干上がり、水がなくなって露出した地表が冷やされて、永久凍土となります。
永久凍土の下では、地中の有機物が分解されながら副産物としてメタンガスを発生させます。
ところが、上部が湖の柔らかい土壌であればメタンガスが湧出できたものの、鉄板のように硬い永久凍土はガスの湧出口にフタをしてしまい、地中で段々とガスが溜まっていきます。
そして圧力に耐えられなくなった時点で地中のメタンガスがドカン!と爆発し、クレーターができるわけです。
しかし、この仮説には問題点がありました。
まず、8つのクレーターがヤマル半島とギダン半島の限定された場所にしかないことです。
このモデルが正しければ、かつて湖があったシベリアのいろんな場所に同じクレーターが見られるはず。
もう1つは、8つのクレーターの中には過去に湖で覆われていなかった場所があることです。
つまり湖モデルが当てはまらないクレーターがあることを意味します。
そこでオスロ大学の研究チームは、ヤマル半島とギダン半島に特有の地質条件を踏まえた上で、新しい仮説を提唱しました。