ホンダ・シビック・タイプR 価格/499万7300円 試乗記
圧倒的な性能と感性を刺激するエモーションが見事に融合
シビック・タイプRの開発目標のひとつは、ニュルブルクリンクでのFFモデル世界最速タイム更新だった。
およそ150のコーナーからなる全長20.832kmのノルドシュライフェ・サーキットは、全般的に車速域が高いうえ、急勾配や強くうねった路面が多く含まれる。最速タイムを叩き出すには、エンジンパワーと優れたエアロダイナミクス、さらには優れたボディ剛性や強靭でありながらしなやかにストロークするサスペンションが求められる。それは、綿密で複雑な計算式のうえにのみ成り立つ世界であって、人間の情感が入り込む余地など皆無といっていい。
そうした目標の達成を目指す技術陣の血の滲むような努力もあって、新型タイプRは7分44秒881のラップタイムをマーク。見事、FFモデル世界最速の座を得ることに成功した。
ところが、タイプRはラップタイム更新だけを目指して作られた無味乾燥なハイパフォーマンスモデルではない。乗る者の感性を激しく刺激するエモーショナルなスポーツカーでもある。
まず、エンジンが極めてスパイシーなことに注目したい。2リッターのK20C型VTECユニット(330ps/420Nm)は、7000rpmのレッドゾーンまで、まるで淀むことなく、一気にレブカウンターを駆け上がっていく。回転フィールは抜群に軽々としていて、ターボエンジンであることを意識させない。
そしてエグゾーストサウンドがまた官能的である。ボリュームそのものは小さめながら、重々しさのない澄んだ快音を響かせる。乾いた抜けのいい音色という意味では、国内スポーツエンジンの中でトップクラスに位置する「作品」といえる。
トランスミッションは6速MT。金属製ノブを備えたシフトレバーの感触も絶品といっていい。「吸い込まれるようにギアチェンジが決まる」という表現は、このクルマのために生み出された言葉のように思えてくる。事実、目指すギアポジションの近くまでシフトレバーを導くと、あとは自分の意思でゲートに入っていくかのような不思議な感触が得られる。日本には、優れたシフトフィールのクルマが数多く存在するが、タイプRはそのなかでも5本の指に入る。まさに「官能的なシフトフィール」を備えたモデルだと思う。
しかも、コーナリング性能は恐ろしく高いのに、ハンドリング特性はあくまでも寛容でスタビリティも優秀。可変ダンパーのスポーツモードや+Rモードを選んだとき、路面によっては上下動が反復する傾向が見られる点だけは残念だが、乗り心地もロングツーリングが十分に許容できるレベルにある。
新型になって内外装が一気に洗練されたことも注目ポイントのひとつ。ニュルブルクリンクで世界最速のFFモデルであるだけではない。官能性や快適性まで含めて理想を追求したシビック・タイプRは、まさに「気持ち昂る、新世代スポーツ」と呼ぶにふさわしい。最高の1台である。