ところが今度の減税は、インフレの時期に総需要を増やして物価をさらに上げる台所財政である。その財源もまったく当てがないので、赤字国債しかない。減税したら消費は増えるが、それによって税は増収にならない。減税の一部は貯蓄されるからだ。
社会保障支出の激増に備えて財源は温存すべきだ日本はこれから社会保障費の激増する局面を迎える。特に老人医療費が増え、社会保障支出が現在の140兆円から2040年には190兆円になる。毎年3兆円以上も支出が増え、社会保険料は大幅な増税になる。
このような危機にそなえて大蔵省は所得税を減税する一方で消費税を増税したが、運悪く竹中内閣も橋本内閣も消費税増税で倒れ、安倍内閣は2度も増税を延期したため、2010年代には社会保険料が激増し、30%を超えた。
これ以上の社会保険料の増税を防ぐためには、第一義的には医療費の一律3割負担など社会保障支出の削減が必要だが、これは政治的にむずかしいので、今は所得税や住民税などの財源を温存すべきだ。ここで無意味な所得減税をやると、将来の社会保険料がさらに増える。
社会保障改革に逆行するバラマキ減税長期的には社会保険料を消費税で置き換える最低保障年金や負の所得税などの改革が必要だが、今回の減税はそういう構造改革に逆行し、新たな既得権をつくるバラマキである。基礎控除を上げると年金生活者のほとんどが住民税非課税世帯になり、9割引医療などの老人偏重がひどくなる。
この減税は130万円の年収の壁の対策にはならず、扶養控除・給与所得控除も変えないと103万円の壁はなくならない。住民税4兆円を失う自治体も反対するなど膨大な利害関係者が発生するので簡単には行かない。
ただ自民党も政権延命のために、ゼロ回答というわけにもいかない。基礎控除・給与所得控除と同時に、扶養控除や配偶者控除も130万円まで上げる約束をするのが落とし所だろうが、12月の税調で通すのはむずかしい。早くても2026年4月だろう。