国民民主党の減税案が、政局の焦点になってきた。自民党は特別国会の首班指名で石破首相が指名されるために国民民主を取り込もうとし、立民党は党首会談で国民民主に「野田首班」への投票を求めたが、玉木代表は否定的だ。

年収の壁対策にはならない「台所財政」

まずアゴラこども版でも書いたように、今回の減税案は年収の壁対策にはならない。もともと年収の壁というのは130万円の第3号被保険者についての言葉で、103万円は大した壁ではないのだ。扶養控除や配偶者控除の壁はあるが、そんな特殊な問題のために全国民に7.6兆円も減税することはありえない。

この大減税は、マクロ経済政策としてはナンセンスである。インフレ率は30ヶ月以上にわたって2%を超え、政府は累計11兆円の物価高対策で、ガソリンなどに補助金をばらまいているが、これは実際にはガソリンの需要を拡大して物価を上げている。国民民主の減税案はさらに所得税・住民税を2割以上減らして総需要を追加し、インフレの火に油を注ぐものだ。

玉木代表は「自然増収で余った税金をお返しする」というが、このように増収のとき減税やバラマキをやり、不況になったら歳出を削減するのが、昔の大蔵省の台所財政だった。バブル景気で財政黒字になった1989年には、竹下内閣は税金の使い道に困って「ふるさと創生事業」と称して全国の市町村に1億円ずつ補助金を出したが、その直後にバブルが崩壊した。

台所財政は景気循環拡大的(pro-cyclical)なので、90年代から大蔵省もケインジアンに変わり、不況期に減税して財政赤字を出すようになった。景気がよくなるとインフレで増税になるので、それが景気循環を緩和するビルトイン・スタビライザー(自動安定化装置)になる。これは玉木氏も認めている。