ワシントン・ポストも「今回はどの候補も支持しない」とするウィリアム・ルイス最高経営責任者(CEO)の方針を記事として載せた。だがこの措置も同紙のオーナーでアマゾン社の創業者のジェフ・べゾス氏の決定だったことが明らかになった。

同紙もこれまでと同様に民主党のハリス氏を支持する方針が記者、編集者段階ではすでに決まっていた。だが社主の独断でその方針が覆された。これに対して社内や読者から批判が殺到した。元編集局長は「臆病な決定」だと非難し、コラムニスト約20人も自社サイトに「大きな間違いだ」との意見記事を載せた。公共ラジオ「NPR」はワシントン・ポストの電子版解約数が20万人を超えたと報じた。編集幹部らの退職も相次いでいるという。アメリカのメディア界でも未曽有の騒動となったのだ。

さて、2つの有力新聞はなぜこんな動きをとったのか。

いずれも民主党びいきの両紙に共通するのはオーナーがアメリカ実業界の超大物だという点である。べゾス氏のアマゾン社の大成功でのビジネス実績はすでに日本でも広く知られている。ロサンゼルス・タイムズの社主スンシオン氏は医学、医療の世界で画期的な商業実績をあげた大富豪である。両氏とも本来は民主党傾斜だが、今回はその民主党候補を公の場では支持することを控えたわけだ。

その理由については両紙の編集陣からは「トランプ政権が再び登場して、政敵のハリス候補を強く支持したメディアや大企業にはなにかと圧力をかけることを恐れたのだ」という観測が一斉に打ち出された。べゾス氏もスンシオン氏もその観測を否定して、「特定候補の正面からの支持はいまの険悪な党派対立をさらに激しくすることを懸念したのだ」と説明した。

だが両氏の態度の背後に明確に浮かぶのは、今回の選挙ではやはり共和党のトランプ氏が勝つだろうという見通しだったといえる。べゾス氏もスンシオン氏ももしハリス候補の勝利が確実だと考えていれば、自分が所有する新聞の年来の伝統的な支持表明にはためらわなかったことも明白だった。実は両紙の編集陣の内部ではこの考察が強く、しかも明確に語られていた。