ジャングルでサルと共に成長した女性
マリーナ・チャップマン氏は、5歳から10歳までサルに育てられたイギリス人女性です。
大人になった彼女は、現在イギリスに住んでおり、その様子からすると、とても野生児だったとは思えません。
しかし、彼女自身が語ることによると、壮絶な人生を歩んできたようです。
チャップマン氏は5歳の時に、おそらく身代金目的で誘拐されましたが、家に戻されることはなく、そのままコロンビアのジャングルに置き去りにされたのです。
そこで彼女は、幸運にもオマキザルの集団に迎え入れられました。
当初、チャップマン氏は木に登ることもできず、サルの方も彼女に興味を示すことはなかったようです。
しかし、一匹のサルが近づいてきたことをきっかけに、徐々にサルたちの一員になっていきました。
彼女はサルたちの真似をし、グルーミングしたり、四足歩行したり、サルのような鳴き声を発したりしました。
彼女はサルたちと同じように木の上で生活するようになり、ナッツや虫などを食べたようです。
ちなみに、チャップマン氏と共に過ごしたオマキザルは、道具を使うことができる賢いサルであり、表情も豊かでコミュニケーション機構が発達していることで知られています。
そんなサルだからこそ、チャップマン氏とサルたちは互いを受け入れて共に過ごすことができたのかもしれません。
そして10歳の時、チャップマン氏はハンターに見つかり、人間社会へと引き戻されました。
それでも売春宿や路上、ギャングの家での生活を転々としており、決して幸せな生活ではありませんでした。
しかし今では、いくつかの幸運が重なり、結婚して家族を築いています。
そんな彼女は、自身の経験を本にして出版しており、彼女を取材したドキュメンタリー番組なども発表されました。
ただし、多くの人々は彼女の話の真実性を疑っており、一部の研究者は、彼女が誤った記憶を述べてしまう「過誤記憶」ではないかと考えています。
一方、彼女の足の骨のX線写真によって、6歳から10歳ごろの間にひどい栄養失調だったことが分かっており、彼女の主張を補強するものとなっています。
彼女の主張がどこまで真実かを知るすべはありませんが、仮に事実だとすれば、野生児が幸せな将来をつかみ取った稀な例だと言えます。
ここまでで、動物の世話を受けた子供たちについて紹介してきました。
そしてこれら以外にも、多くの野生児のエピソードが存在しています。
それらの現実は、SNSで見かける「人間社会の中で見られる動物と子供の友情・愛」とは大きくかけ離れたものです。
連れ戻された野生児は、往々にして人間社会に溶け込むことが難しく、なんとも言えない結果になります。
もし、しばらく動物の世話を受けながら、問題なく人間社会に戻ることができた子供がいるなら、それは本当に稀で幸運なことなのです。
参考文献
Feral Children: Mind-Blowing Cases of Children Raised by Animals
元論文
Feral children: Questioning the human-animal boundary from an anthropological perspective
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。