ロペス・オブラドール氏はメキシコで初めて左派系の大統領として登場した人物で、ポピュリストであり、カルテルとの対峙をできるだけ避けようとした人物である。だから、彼の政権下でカルテルの動きを取り締まることなど全く期待できなかった。しかも、米国の麻薬取締局(DEA)は彼がカルテルの影響下にあったと指摘している。

DEAはメキシコにも局員を派遣しており、メキシコ国内でのカルテルの動きについて十分なる情報を持っている。だから、シナロアとハリスコがメキシコ国内でフェンタニルを生産しているという確かな情報を掴んでいる。ところが、ロペス・オブラドール氏はそれを常に否定。またDEAはその証拠を同氏に見せることも避けた。というのも、その情報を彼に伝えると、それがカルテルに流れるからであった。

10月から新大統領として登場したクラウディア・シェインバウム氏はメキシコで初めて女性大統領として登場した。しかし、彼女からは米国との麻薬密売の件で協力を得ることはロペス・オブラドール前大統領と同じように難しいであろう。なぜなら、彼女はロペス・オブラドール氏の子飼いの政治家で、彼と異なった政治を行うことは先ず期待できないからである。

麻薬組織シナロアとハリスコについて

この2大カルテルについて次に説明しておきたい。

シナロアの誕生は1960年代に遡る。ペドロ・アビレスという人物が創設したカルテルだ。1970年代に麻薬への取り締まりが強化され、当時はまだカルテルが警察や軍人、政治家などと癒着しておらず、彼はメキシコ軍隊と1978年に交戦して死亡。その跡を継いだ2人の人物が米国市場を開拓。メキシコと米国との国境にトンネルを建設したり、小型飛行機が着陸できる滑走路を米国内に建設。そのひとりがDEAによって逮捕された後、その後継者となったのが通称エル・チャポと呼ばれているホアキン・グスマン氏だ。

彼がメキシコで最大のカルテルに育てた。その背景には主に麻薬や武器などの密売した資金力で警察、政治家、高級官僚、判事らを賄賂で味方につけたことである。また、フェリペ・カルデロン元大統領の政権時に彼はライバルのカルテルの情報を政府に流し、政府は彼らを取り締まる。その代償として、シナロアの販路拡大には大目に見ていた。