先月24日に東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた船井電機。10月30日付「日本経済新聞」記事によれば、2021年に出版社の秀和システムの子会社・秀和システムホールディングス(HD)に買収されて以降、約300億円の資金が流出していたという。船井電機が持ち株会社・船井電機・ホールディングス(HD)に約253億円を貸し付けて回収不能の見込みになっていたほか、10月30日付「読売新聞」記事によれば、23年に船井電機HDが買収した脱毛サロン・ミュゼプラチナムへの資金援助が原因で33億円の簿外債務が発生していたという。このほか、船井電機HDの純資産が250億円も減少して半分以下になるなど、秀和システムHDによる買収後の船井電機と船井電機HDをめぐる一連の不可解な資金の動きが注目されている。

 船井電機は創業者・船井哲良氏が08年に社長退任後、赤字が常態化していたとはいえ、秀和システムHDによる買収前の20年度の時点では売上は804億円あり、営業損益は3億円の赤字、最終損益は1200万円の赤字にとどまっており、現金は349億円、純資産は518億円あった(借入は1.8億円)。そこから秀和による買収後わずか3年で負債総額461億円、117億円の債務超過に陥った。昨年度の売上高は434億円、最終損益は131億円の赤字。

「船井電機はテレビ製造という本業を持ち、一定規模の売上をあげ、赤字だったとはいえ営業利益ベースで3億円程度の規模なので、きちんとリストラをはじめとする施策を進めれば十分に再建できた可能性があります。なので企業価値を高めて売り抜けることが目的のファンドなどに買収されていれば、破産とは真逆の結果になっていたかもしれません。船井電機は23年につくられた船井電機HDに多額の貸し付けをさせられて、それが焦げ付き、船井電機HDが買収したミュゼプラチナムへの資金援助も負担させられていました。さらに、報道によれば秀和による船井電機の買収資金も銀行貸し付けの保証をするかたちで最終的に船井電機自身が負担させられる羽目になっていたということなので(前出・読売新聞記事より)、非常に不可解です。

 秀和システムの上田智一社長が船井電機、船井電機HDの社長を務めていたことから、一連の動きは秀和が進めたものとみられますが、いったい何をしようとしていたのか、いまいちよくわかりません。ただ、全体を振り返ってみると、船井電機HDをベースに事業の多角化を進めるために、船井電機という財布に入った金がどんどん使われ、その財布がすっからかんになってしまったようにみえます。約2000人に上る従業員が給料未払いのまま即時解雇されたわけですから、秀和には説明責任があります」(大手銀行系ファンドマネージャー)

買われた側、完敗の手法?

 数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。

「(秀和は)船井電機を非上場化して手に入れる際にLBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる手法を使った可能性があります。買収する際に金融機関から資金を借りるのですが、最終的にはその負債は買われた会社に背負わされ、買われた会社が返済していく手法です。買い物をする側がその資金を買われる側に払わせるという、買う側圧勝、買われた側(特にその返済のためにその後、何年も働かされることになる従業員)完敗の手法です。

 融資で調達されたお金は当時の上場株を保有していた外部の株主に渡るために、これから船井電機HDとなるグループ会社たちに渡るわけではないので現金は当然増えず、しかし負債だけが追加され、資産額(資産額は資本と負債を合計したもの)が同じであれば結果的に自己資本を減らすことになります。22年度から23年度の動きは興味深いです。純資産は256億円から202億円に減り、総資産も757億円から714億円に減っています。現金が40億円以上減っている可能性が高いでしょう。それが単なる赤字による影響なのかもしれませんが、他の可能性も考えられます」(10月31日付当サイト記事より)