晴れて国民議会の議長に選出されたローゼンクランツ氏は就任最初の外国からのゲストに欧州連合(EU)から異端児と呼ばれているハンガリーのオルバン首相を招いたのだ。その時点で、「緑の党」はローゼンクランツ議長を批判したが、プロトコール上は問題はない。オスバン首相は現在、今年下半期のEU議長国のハンガリーの政府首脳だ。オーストリア国民議長がそのオルバン首相を国会に招いたとしても問題はない。ただ、極右政党出身の国会議長がEUに批判的な政治家で親露派と見られているオルバン首相を招いたことでメディアが騒いだこともあって、注目されたわけだ。オーストリア国営放送の報道によると、ローゼンクランツ議長とオルバン首相の会談は45分間程度で大きな議題はなく、「象徴的な会談だった」という。
ローゼンクランツ議長との会談後、オルバン首相はキックル党首と2者会談し、そこで「ウィーン宣言」に署名している。両者は「隣国としての友好関係」を示すものとして「ウィーン宣言」に署名したという。報道によれば、「ウィーン宣言」は、自由党とオルバン首相が率いる右派民族主義政党フィデスのヨーロッパ観に基づく主要原則をまとめたものだ。宣言の冒頭では「ハンガリーとオーストリアはここに、隣国としての友好関係と歴史的・文化的に強い絆を再確認する」と記されている。テキストでは、EUによる中央集権化が批判され、「男女以外の性自認」は拒否されている、といった具合だ。
ちなみに、ウィーンで6月30日、欧州の右派勢力、オーストリアの野党「自由党」、ハンガリーのオルバン首相の「フィデス=ハンガリー市民同盟」(Fidesz)、そしてチェコのバビシュ元首相の「ANO」の3党が欧州議会で新しい会派「Patriotsf or Europe」(欧州のための愛国者)の結成を表明している(「欧州右派3党、新しい会派を創設へ」2024年7月2日参考)。
「ウィーン宣言」の署名に対し、国民党はキックル党首に「職権乱用」の疑いを指摘している。国民党のシュトッカー幹事長は1日、「キックル党首がオーストリアの名の下に署名するのは政治的な職権乱用に相当する。彼にはオーストリアを対外的に代表する公式な権限がない」と批判した。また、オルバン首相がローゼンクランツ議長を訪問した際に、議会の接見室からEU旗が片付けられていたことも問題視し、「キックル党首がオーストリアやEUに対していかに軽視しているかが表れている」と主張している。なお、「オーストリアの名」で宣言に署名できるのは連邦大統領または首相のみだ。職権乱用罪は最長6か月の懲役刑が科される。