東医師は精神科医としての立場から、精神科では「患者が困っていること」に重きを置き、病名にこだわらずに患者の抱える問題に対応することが重要だと強調する。具体的な病名がつかなくても、症状があり生活に支障が出ている場合には、適応障害や不安障害といった便宜的な病名を用いることもあると説明している。こうした柔軟な対応は、精神科医療の特徴であり、患者の話を丁寧に聞き、症状や生活に寄り添った対応をすることが、精神科医療の根底にある姿勢とされている。
そして本書は、症状が出る背景には個々の患者が抱える様々な悩みやストレスが存在していることも強調している。例えば、家庭や職場での問題、対人関係の悩みが症状の引き金になることが多く、その要因が表面に出ない限り、症状は改善しにくいこともある。
理系的な側面と文系的な側面が拮抗する精神医療また、精神医学には理系的な側面と文系的な側面があり、科学的な分析だけでなく哲学的な考察も必要とされる領域だとされる。歴史的に見ると、精神医学は理系的な分析が主流となる前は、哲学的な側面が強調されてきた分野であり、近年は科学的な進展によって精神医学の理解が進んでいるが、今後も両方の視点が求められることに変わりはない。
そして、精神医学を心や脳の働きを研究する学問であると同時に、人間の生き方や感情に深く関わるものであり、単に診断や治療の技術を学ぶだけでなく、患者の感情や日常生活に配慮した医療が必要だと述べている。
本書『誰でもわかる精神医学入門』は、医療従事者だけでなく、一般の人が精神医学についての基本的な知識を得ることで、患者やその家族への理解を深めるきっかけとなる内容となっている。また、精神医学をより親しみやすく紹介し、精神疾患の患者を支える医療と社会のあり方について考える手助けとなるマストな一冊だ。