本来、これらの作業を担うのは企業ではない。法(国税通則法16条)は

「納付すべき税額が『納税者のする申告』により確定することを原則」

と規定している。つまり、従業員自身が申告し、国が精算する「確定申告」が原則、企業が行っている年末調整はイレギュラーなのだ※2)。原則に戻すという点においては、河野氏の主張も理解されるのではないだろうか。

Seiya Tabuchi/iStock

納税者の意識

加えて、年末調整には、「国民の税に対する関心を失わせている」という指摘がある。

弁護士や大学教授で構成される「民間税制調査会」の発言は、年末調整に批判的なものが散見される。調査会メンバーの青木丈氏は

「給与所得者が源泉徴収と年末調整で所得税制のことを自覚しないまま負担していることが最大の問題」

「申告納税制度をこのように形骸化させたのは,1947年に申告納税の導入に抵抗していた大蔵省(当時)が導入した年末調整制度」

民間税制調査会による税制改革提言のポイント

と手厳しい。同会メンバーの三木義一氏は

「年末調整は、税への関心を失わせる一種の愚民化政策」

「年末調整は税への関心を失わせる愚民化政策」民間税調の青山学院大学長、税制を斬る

とまで言い切る。

筆者としては、愚民化というより「鈍民化」といったほうがしっくりくるように思う。

会社を辞め独立した人ならわかるはず。勤めてた頃は「鈍感」だった。給与明細で見るのは「差引支給額」だけ。引かれる額は気にしない。税や社会保険に対する感覚は極めて鈍い。

独立すると急変する。感じるのは「疑問」と「怒り」だ。

数ヶ月働き、ようやく得た報酬から、「顧客」に源泉徴収される10.21%の所得税。(所得税ではないが)自ら納付しなければならない住民税、国民健康保険そして年金。

これらを、確定申告でまとめてみると、納めた額は(それなりに)大金だ。これだけの額を多くの国民から集めているのに、税金も社会保険もまだまだ足りないって……おかしくないか? 何に使ってる? 無駄遣いしているのでは? これまで感じなかった疑問や怒りがわいてくる。税や社会保険に対する感覚が「鋭敏」になってくる。