私は日本製鉄を応援しています。ただ、現状雲行きは厳しいと言わざるを得ません。私の2月8日付「日本製鉄のUSスチール買収は出来るのか?」で私の考える6つの案を提示しました。その1つ目の案である雇用の確約と平和的買収の組合への申し入れを同社が行いました。これに対して全米鉄鋼労働組合が「空手形」と称しました。理由は雇用を約束しているが「予期せぬ経営環境の悪化」など留保条件が付いているからだ(日経)としています。
またTBSが鉄鋼労組委員長との単独インタビューで「買収者として不適格」と述べています。ただ、このインタビューを見る限り、日本製鉄が鉄鋼労組に「仁義」を入れなかったことへの怒りのほうが大きく「メンツをつぶされた、仕切り直しをせよ」と言っているように聞こえます。つまり、何が何でも反対ではないのだが「おまえ、アプローチを間違えただろう。俺様を誰だと思っているのだ!」という上から目線ありありなのです。
では仕切り直しをすればライバルであるクリーブランド クリフスに買収のチャンスの芽が再び起きるのか、といえば厳しいと思います。理由はUSスチールとクリーブランドでEV向けの鉄鋼の供給が100%になるかと思うので独禁法上、買収が成立しない公算が極めて高いからです。
一方、直近のニュースで岸田首相が今月、訪米する際、バイデン大統領にこの買収話を持ち掛けるのか、という質問に首相は「一企業の話」であり「今回のアジェンダには入っていない」と述べています。これは私の6つの提案の一つであっただけに残念であります。(オフレコの話はする気がしますが。)
日鉄のUSスチール買収は論理の話ではなく、アメリカの魂に触ってしまっていることがあります。しかし、例えば会社を台湾企業に売却したシャープや海外企業に事業売却した数多くの家電メーカーもあることを考えればUSスチールがきらびやかな事業状況ではないことも鑑み、救済的な意味合いも含め、労働組合にも決して悪い話ではないはずです。
こうなると株主総会での決議よりも日鉄のUSスチールへのリスペクトと協業の姿勢でしょうか?対策の一つとして全米の主要紙に1面全部を使ったadvocacy advertisement(意見広告)を入れて世論を味方につける算段を打つ手はあるかもしれません。劇薬であり、失敗すると自爆する極めてリスクの高いやり方ですが、政争の具である現状を踏まえ、目には目を、という手段もあるのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年4月5日の記事より転載させていただきました。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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