日本経済を俯瞰するにおいて私の懸念は労働のミスマッチが今後さらに深刻な事態になるだろうという点です。大学全入時代で子供たちは泥臭い生活を送ったことはなく、マンションに住み近代的で快適な生活をしていると当然、仕事はオフィスワークがイメージされてしまいます。それもできればテクノロジーが絡むような仕事が良いと考え、筋肉系の業種はどうしても避けられてしまいます。このミスマッチを補填するのに手っ取り早いのは外国人労働者なのですが、日本の物価水準=賃金水準が低いため、外国人労働者も「稼ぎに行くなら日本じゃないよね」になるのです。

また、外国人労働者がお嫌いな方がいるのは知っています。しかし残念ながら日本において200万人を優に超える外国人労働者はエントリーレベルの業種、例えばコンビニや飲食店の店員、農業、建設業の補助業務などを支えている重要な労働力となっているのです。今の大学生にバイトで居酒屋で働かないかといっても「たるい!」と言われるのが落ちでしょう。これは北米でエントリーレベルの仕事を白人がやらなくなり、それをアジア人やヒスパニック系が補っていったのとまったく同じ構図でもはや好き嫌いを言っていられない時代になったのです。

となれば日本の物価は必然的に上昇する、これが私の描くシナリオです。石破氏が最低賃金1500円を20年代に、と述べ実現不可能だと批判されました。私もそう申し上げました。一方で一部業種の人材不足は経営の維持ができないほどになる可能性があり、大量の廃業、倒産、統合、買収が起きないっとも限りません。その場合、業界や業種、事業を維持するために破格の賃金を提示するところが出てくるようになるはずです。私はファーストフードや居酒屋の時給が2000円を超える日は遠くないとみています。

では時給2000円を払おうという会社と法定上の最低賃金1000円強との違いは何か、といえば仕事ができる人だけが採用されるということです。誰でも2000円ではないのです。とすれば石破氏のいう最低時給1500円は考え方次第ではそれに近づけることは可能なのです。労働者の質を上げ、労働哲学をしっかり理解してもらうことです。既に都市部で起きている時給の実勢と最低賃金とのギャップは期待労働力の差ということになります。「ちゃんと働いてくれれば2000円、だめなら即クビ」であります。