去る7月、英国の2大政党の1つ、労働党が14年ぶりに政権を奪回しました。ところが、党内を分断する政策提案やお金にまつわる数々のスキャンダルの対応に追われています。

最初の衝撃は、7月末です。英国初の女性財務相となったレイチェル・リーブス氏が財源安定化のため年金受給者への冬季暖房費補助金を原則停止すると発表したのです。国から各種手当を支給されている低所得の高齢者世帯には継続されますが、この決定によって約1000万人の年金生活者が支給対象外となってしまうのです。光熱費も上がる予定で、高齢者にとっては厳しい冬になってきました。

「財源安定化のため」の苦渋の選択だったかもしれませんが、前回の保守党による緊縮財政を長年批判してきた労働党ですから、まさかという感じでした。ここで労働党は大きく信頼を損なってしまいます。

キア・ロドニー・スターマー首相インスタグラムより

官邸へのパス

8月、労働党への大手献金者の1人として知られるワヒード・アリ卿に対し、官邸に自由に出入りできる許可が与えられていたことが発覚します。通常は官邸で働く人、首相の家族、議員だけが往来の許可を与えられるのですが、アリ卿が大型献金者だったから規則を緩めたのでしょうか?

新政権は「お金をくれる人・身内を優遇する」という印象を与えてしまいました。

高価な洋服や眼鏡をもらっていた

アリ卿をめぐるスキャンダルは深まります。政権発足初日、官邸のドアの前に立ったキア・スターマー首相の隣にいた妻のヴィクトリアさんが着用していた真っ赤なドレスは、アリ卿が提供したものだったのです。

首相は当初、この事実を申告していませんでした。政党・選挙・国民投票法(PPERA)に基づき、国会議員は一定以上の金額の献金や融資を届け出る義務があります。ただ、議員ではない妻の分まで届け出る義務があるのかというと、決まった答えはないようです。

スターマー氏の届け出の内容を見ると、昨年はアリ卿から宿泊費、洋服、複数の眼鏡など4万ポンド(約772万円)相当の献金を受けていました。