開発されたばかりのころやわは、現行製品よりも遥かに分厚いものでした。それが改良を経て、1.2cmにまで薄くなりました。その上で、ころやわにセンサーを埋め込んでIoT化する改良も実施され、既に販売が行われています。
「このセンサー内蔵ころやわの上で転倒すると、“アクシデントが発生した”という通知が施設の管理者に行く仕組みです。また、常に重量を検知する仕組みですから、それを要介護者の生活データとして収集・活用することもできます」
さらに、その数歩先の光景についても下村氏は語ります。
「そうしたデータを集めることができれば、保険料の算出にも活用できるのではないでしょうか。センサー内蔵のころやわを通じて、“屋根の下のデータ”を全部取れるようにしたいなと考えています」
「意識の変革」に挑戦
もちろん、当初からの目的である「高齢者の転倒による負傷の削減=医療費発生の抑制」にも焦点を当て続けると下村氏は説明します。
「我々は“転倒骨折ゼロプロジェクト”というものを行っています。日本では毎年、転倒による骨折患者が毎年100万人ほど出ています。それに対して支出される医療・介護関連費は約2兆円。骨折をゼロにできれば、当然ながら費用は発生しません。
その取り組みをまずは浜松市内から全国に広げます。日本で2兆円の費用を削減できた実績が生まれると、そのシステムを海外へ輸出する選択肢も浮上します。これはちょうど、新幹線システムを輸出するような要領です」
さらに下村氏は、「転倒骨折に対する一般市民の意識」についても触れます。
「たとえば、飲酒運転に対する意識は昔よりも大きく変わりました。お酒を飲んでハンドルを握ると、取り返しのつかないことになってしまう。そうしたことは、今や誰でも心得ています。
転倒骨折もそれと同じで、発生すると本人だけでなくその周囲の人に多大な負担を与えてしまいます。だからこそ、しっかり予防しないといけません。そうした啓蒙活動を今後していきたいと考えています」