遺伝子変異を持つレトリバーは食間に強い空腹を感じる

ラブラドール・レトリバーに食べるだけエサを与える実験。POMC変異を持つイヌとそうでないイヌに違いなし。
ラブラドール・レトリバーに食べるだけエサを与える実験。POMC変異を持つイヌとそうでないイヌに違いなし。 / Credit:Canva

最初に研究チームは、87頭の成犬ラブラドール・レトリバーを対象に、彼らがそれ以上食べなくなるまで、20分ごとに缶詰のドッグフードを与えました。

その結果、すべてのイヌが大量のドッグフードを食べましたが、その総量には大きな違いがありませんでした。

POMC変異を持つイヌだからといって、そうでないイヌよりも多く食べることはなかったのです。

このことは、POMC変異を持つイヌも、そうでないイヌも、同じ程度の満腹感を持っていることを示しています。

容器に入ったソーセージを何とか食べようと試みるラブラドール・レトリバー
容器に入ったソーセージを何とか食べようと試みるラブラドール・レトリバー / Credit:Eleanor Raffan(University of Cambridge)et al., Science Advances(2024)

次の実験では、同じラブラドール・レトリバーたちを対象に、食間の反応を調べました。

このテストでは、イヌたちに「透明な容器に入ったソーセージ」が与えられました。

イヌたちはソーセージを見たり、匂いを嗅いだりできますが、その容器を開けてソーセージを食べることはできません。

その結果、POMC変異を持つイヌは、そうでないイヌに比べて、より長い時間、ソーセージを箱から取り出そうと奮闘すると分かりました。

研究チームは、このことが「より強い空腹感を持つことの証拠」だと述べています。

また別の実験では、フラットコーテッド・レトリバーを対象に、睡眠中(安静時)の代謝を測定しました。

その結果、POMC変異を持つイヌは、そうでないイヌに比べて消費カロリーが約25%少ないことが明らかになりました。

一部のレトリバーは太りやすい「二重苦」を抱えている

遺伝子変異を持つレトリバーは、太りやすい「二重苦」を抱えている
遺伝子変異を持つレトリバーは、太りやすい「二重苦」を抱えている / Credit:Canva

これら実験の結果は、POMC変異を持つラブラドール・レトリバーとフラットコーテッド・レトリバーが、太りやすい「二重苦」を抱えていることを示します。

彼らは、食事と食事の間により強い空腹を感じるだけでなく、消費カロリーも少ないのです。

ラファン氏は、次のように結論付けています。

「私たちは、POMC遺伝子の変異により、イヌの空腹感が増すことを発見しました。

彼らは変異のないイヌよりも食間にすぐおなかが空くため、過食する傾向があります」

しかも、「もっと食べたいだけでなく、カロリー消費が速くないため、必要なカロリーは少ない」のです。

このことから、POMC変異は、脳内の経路を変化させ、体に飢餓信号を引き起こすものだと分かります。

いわば飢餓状態だと錯覚した体が、生命を維持するために、消費エネルギーを節約し、より多くのエネルギーを取り入れようとするわけですね。

遺伝子変異を持つレトリバーの飼い主は、より愛犬の食事に気を付けなければいけない
遺伝子変異を持つレトリバーの飼い主は、より愛犬の食事に気を付けなければいけない / Credit:Eleanor Raffan(University of Cambridge)_Genetic mutation in a quarter of all Labradors hard-wires them for obesity(2024 EurekAlert)

ラブラドール・レトリバーの約25%、フラットコーテッド・レトリバーの約66%が絶えずそのような状態にあるということは、レトリバーの飼い主の多くが、愛犬の食欲に上手に対処しなければいけないことを示しています。

実際、POMC変異のあるレトリバーは、常に食べ物を探しており、飼い主の管理(食事や運動)が不適切でなくとも、太ってしまうことがあるようです。

では、POMC変異を持った「食いしん坊で痩せにくい」レトリバーには、どう対処できるでしょうか。

ラファン氏は、「これらのイヌをスリムに保つのは難しい」とした上で、次の方法を用いることで「管理が可能だ」と述べています。

1日に与えるエサの量はそのままで、食事の回数を増やすことで、レトリバーの空腹感を紛らわすことができるというのです。

ワンコの「ご褒美」は、おやつではなく散歩にしよう
ワンコの「ご褒美」は、おやつではなく散歩にしよう / Credit:Canva

また、パズルフィーダー(エサを取りにくくするエサ入れ)を用いたり、庭にエサをばらまいたりすることで、一気に食べないよう工夫することもできます。

さらに、愛情を示す方法として、「おやつを与える代わりに、散歩してあげる」などの代替方法も効果的なようです。

レトリバーは日本でも大人気であり、私たちが飼育しているレトリバーも、POMC変異を持っている可能性があります。

そんな遺伝子的に食いしん坊なワンコには、一層気を遣って、できるだけ健康でいさせてあげてくださいね。

参考文献

Genetic mutation in a quarter of all Labradors hard-wires them for obesity

元論文

Low resting metabolic rate and increased hunger due to β-MSH and β-endorphin deletion in a canine model

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。