「日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院で、搬送された16歳の男子高校生について、研修医が誤診し、死亡させる医療ミスがあった」とのニュースが流されている。事故調査委員会が「研修医から経験のある医師への相談がされなかったことなどが問題」と指摘したそうだ。診断が速やかにされていれば助けられた命であったかもしれない不幸が起きたことには心が痛む。

しかし、多くのメディアが取り上げて同じような論調で報道されたこの記事が、現場の医療に与えるインパクトは大きい。「十二指腸閉塞」を「急性胃腸炎」と誤診したのが問題で、「経験のある医師に相談すべきだ」という指摘だが、実臨床を考えるとかなり厳しい報道と言わざるを得ない。

いろいろな病気を100%間違えることなく正しく診断することは夢物語だ。米国では診断間違いで死に至る、あるいは、治らない後遺症を残す患者が年間80万件に及ぶという。大動脈解離や動静脈血栓症などの病気では、発症初期は4-5人に一人が正しく診断されていない。医療現場は忙しない状況であり、どうしても診断時に、経験や先入観に基づいて診断すること(ヒューリスティック思考と呼ばれているそうだ)が多くなる。処方ミスも少なくない。

初期症状に関する詳しい情報がないが、「十二指腸閉塞」を疑わなかったことが誤診と称されてメディアから袋叩きに合うのは厳しいなと思う。私自身も私の周辺の多くの医師も「16歳の十二指腸閉塞」は経験したことがないと言っていた。頻度からも「急性胃腸炎」の方が圧倒的に多いので、この誤診騒ぎは納得がいかない人が多いと思う。

事故調査委員会の「経験のある医師に相談しなかったことが問題」というコメントにも疑問だ。研修医と言え、医師免許は持っている。当然ながら診断がつかないような状況や重篤な症状ならともかく、間違っていたとしても、相談しなくていいかどうかは現場の医師の裁量だ。すべてを経験のある医師に相談する事態になれば、医療現場は動かなくなることが必至だ。