うつ病治療のスタンダードが大きく変わるかもしれません。
うつ病は現在、精神療法や薬物治療が一般的ですが、すぐに効果が現れなかったり、副作用が出るなどの問題があります。
しかし名古屋大学大学院 医学系研究科はこのほど、患者にヘッドバンドを装着して、そこから超低周波磁場を発生させることで、うつ症状の改善が見られたことを発表しました。
治療効果はわずか4週目から現れ、さらに人体への有害な作用も見られなかったとのことです。
研究の詳細は2024年3月26日付で科学雑誌『Asian Journal of Psychiatry』に掲載されています。
うつ病治療の新たなスタンダートとなる「エルフ・エルメ療法」とは?
うつ病は「気分が落ち込む」「物事への関心がなくなる」「食欲がなくて眠れない」「集中力が低下する」などの症状を特徴とする精神疾患です。
これらが原因となって職場や学校に行けなくなり、最悪の場合は自死につながる恐れもあります。
現代はうつ病患者が世界的に増加傾向にあるため、迅速で効果的な治療方法を確立するのが喫緊の課題です。
しかし今日の精神療法や薬物治療はすぐに効果が現れなかったり、副作用のせいで継続的な治療が難しかったりと、問題が多くあります。
また「電気けいれん療法」や「反復経頭蓋磁気刺激」といった特殊な治療法もありますが、これらは実施できる医療機関が限られていたり、頻繁な通院や入院治療が必要だったりと、患者への負担が大きいのが問題です。
そこで研究チームは、うつ病治療の新たなスタンダードとなり得る「エルフ・エルメ療法」を開発しました。
エルフ・エルメ(ELF-ELME)は、日本語で「超低周波-超低磁場環境」を意味する英語の略称を指します。
具体的には、1〜8ヘルツ(Hz)の超低周波で変動するわずか10マイクロテスラ(µT)の超低磁場環境を発生させるヘッドバンドを装着する治療法です。
これは日本の地磁気の4.5分の1であり、かつ国際ガイドラインで定められている一般大衆における暴露基準値の60分の1以下という人体に害のないレベルの磁場となります。
しかし、どうして磁場でうつ症状が完全されるのでしょうか?
うつ病のメカニズムはまだ解明されていませんが、実は近年の研究では、脳内におけるミトコンドリアの機能異常がうつ病と深く関連していることが示されています。
ミトコンドリアとは、細胞内に備わっている器官であり、細胞の活動に必要な「アデノシン三リン酸(アデノシンさんリンさん:ATP)」というエネルギーを産生する場所です。
うつ病患者の脳内ではミトコンドリアの機能異常が見られ、さらにうつ病のモデルマウスのミトコンドリア機能を改善させると、うつ症状が緩和することが実験から確認されていました。
しかし今までのところ、うつ病患者のミトコンドリア機能を改善させる治療方法は確立されていません。
そこでチームが考え出したのが、超低磁場によってミトコンドリアの「マイトファジー」を誘発する方法です。
マイトファジーとは、傷ついたり機能不全に陥ったミトコンドリアを分解して除去する細胞内の働きであり、その後にミトコンドリアを新たに作り出して活性化させる機能があります。
簡潔にいえば、健康なミトコンドリアを復活させる細胞のシステムをエルフ・エルメによって起動させるわけです。
チームは実際のうつ病患者を対象に、エルフ・エルメ療法の効果を検証してみました。