音を出すメカニズムを解明
研究チームは今回、ハイスピードカメラを用いて水槽に入れたダニオネラ・セレブラムを撮影し、さらにマイクロコンピューター断層撮影(マイクロCT)と組み合わせて、体内の動きを調べました。
その結果、ダニオネラ・セレブラムは軟骨で「浮き袋」をドラムのように高速で叩くことにより爆音を出していたことが判明したのです。
浮き袋は正式にいうと「鰾(ひょう)」と呼ばれる空気の詰まった袋状の器官で、硬骨魚が持っています。
鰾は主に浮力を得るための器官であり、魚たちはこの伸縮性に優れた風船のような袋に空気を溜めたり抜いたりしながら浮力調節をするのです。
しかしダニオネラ・セレブラムは浮き袋を音響装置としても使用していました。
このシステムに関係していたのは、浮き袋・軟骨・肋骨・筋肉です。
下図を参照にしながら、その動きの仕組みを紐解いてみましょう。
音響装置は頭部のすぐ後ろに位置し、紫が浮き袋、緑が筋肉、ピンクが肋骨、水色が軟骨です。
まず、浮き袋(紫)の左右にある細い肋骨(ピンク)がその上部の筋肉(緑)により頭側に引っ張られます。
引っ張られるのは同時ではなく左右交互です。
このとき、片方の筋肉が収縮して肋骨が頭側に引っ張られると、肋骨が少し先にある軟骨(水色)を引っ掛けます。
すると、軟骨が肋骨の内側にカコンッ!と勢いよく嵌まる瞬間に、それが浮き袋にヒットするのです。
そして筋肉が弛緩し肋骨が尻尾側に戻されると、軟骨のロックも外れて元の位置に戻ります。
あとはこれを左右交互に反復するだけです。
この動きを高速で繰り返すことで、あたかもドラムを叩いているように軟骨が浮き袋を打ち鳴らし、あの大きな音が出ていたのでした。
またこの大きな音はオスの個体しか出さないことが知られていましたが、その理由はオスの方がメスに比べてはるかに硬い肋骨を持っていることが原因と見られます。
メスの肋骨は丈夫さに欠けるので、こうした激しい動きには向いていないようなのです。
加えて、オスしか使えないという点から、ダニオネラ・セレブラムたちがこの音を使う目的も絞られてくるとチームは考えています。
例えば、メスをめぐるライバル同士の争いや威嚇、メスへのアピールとしての音です。
しかし、それらがどれだけ実用的であり種の繁栄に役立っているのかは、今後の研究課題となります。
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参考文献
A 12 mm fish produces 140-decibel sound to communicate in turbid waters
https://phys.org/news/2024-02-mm-fish-decibel-communicate-turbid.html
One of world’s smallest fish found to make sound as loud as a gunshot
https://www.theguardian.com/science/2024/feb/27/smallest-fish-sounds-loud-danionella-cerebrum
元論文
Ultrafast sound production mechanism in one of the smallest vertebrates
https://doi.org/10.1073/pnas.2314017121
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。