行方不明になったベイジアン号は局地的な竜巻による豪雨や強風で転覆し、海の底に沈んでしまったことが、現地の救援隊の作業によって判明していきます。乗務員を含む乗船者は22人で、そのうちリンチ氏の夫人など15人は救出されましたが、リンチ氏(59)と娘ハンナさん(18)を含む7人は遺体となって見つかりました。

現在海底50メートルに沈むヨットは、シチリア島北東部の港を出て北西部パレルモに向かうところでした。

沈没原因の詳細については、まだ調査が続いています。ベイジアン号の近くにいたボートの船長はヨットが不安定に見えたことを指摘しており、72メートルという世界で最長のアルミニウム製のマストが転覆の原因になった可能性もあるようです。

ただ、ヨットの沈没に首をかしげる設計専門家たちもいるようです(「フィナンシャル・タイムズ」紙、8月24日付)。船舶の動向を無線で識別する自動識別装置(AIS)によると、ベイジアン号がいかりを引きずり始めてから沈没までに16分かかっています。もし瞬時に沈没したのではないとすると、例えば船内に水が入ってきたのかどうか、強風対策が十分だったのかどうかなどの疑問が出てきます。そうなると、船長や乗組員の責任が追及される方に向かいますよね。

一方、気候変動によって地中海の気温が上昇し、より極端な自然現象が発生したことが遠因とする見方も出ています。

ベイジアン号は2008年に建造され、4年前に改修されていますので、ヨット自体には最新の安全基準が採用され、航行や通信設備も水準の高いものであったことが想像できます。沈没原因についての憶測が深まるなか、命を取り留めたベイジアン号の船長はイタリア当局から過失致死の容疑で取り調べを受けました。

9月に行われた検視では、リンチ氏の死因は溺死という仮判断が出ています。

リンチ氏を含む犠牲者の死因を確定するための調査が行われており、10月、英国東部イプスイッチの裁判所が公判を開始しましたが、いったん休廷になっています。再開は来年4月の予定です。