「英国のビル・ゲイツ」?
去る8月19日、「英国のビル・ゲイツ」と呼ばれる人物が乗っていた豪華ヨットがイタリア南部シチリア島沖で暴風雨に見舞われ、行方不明になった事件が発生しました。
全長56メートルの「ベイジアン」号には22人が乗船しており、その安否が大きな懸念となりました。
英メディアが一斉に事件の様子を伝えましたが、「英国のビル・ゲイツ」と言われても、当初、誰のことなのか筆者には分かりませんでした。皆さんはいかがでしたでしょうか。
米大手IT企業マイクロソフトの創業者ゲイツ氏の名前は世界中に知られていますよね。さて、その英国版といわれていたのがマイク・リンチ(Mike Lynch)氏です。
リンチ氏は英国のハイテク分野の新興企業への大物投資家の1人で、1996年、IT企業「オートノミー」を共同創業しました。電話での会話や電子メール、動画など体系化されていない情報から有益な情報を抽出するソフトウェアが主力商品です。2006年には実業界への貢献で大英帝国勲章(OBE)を授与され、BBCの社外取締役(2007年)、デービッド・キャメロン首相の財務顧問(11年)なども務めました。
法廷闘争へ11年、リンチ氏はオートノミー社を米大手ヒューレット・パッカード(HP)社に110億ドル(約1兆6000億円)で売却し、巨額の富を築きますが、買収から1年後、HP社はリンチ氏側が会社の売り上げを水増し、不当に高く売却したと主張し始めます。18年、米検察当局がリンチ氏を詐欺罪などで刑事起訴。22年、リンチ氏は米国に強制送還され、自宅に未決拘禁状態となりました。法廷闘争が続きましたが、今年6月7日、ようやくリンチ氏の複数の詐欺容疑に無罪判決が出ました。この夏のヨット旅行は家族や友人、今回裁判に関係した弁護士たちと勝訴祝いの機会だったといわれています。