アストロラーベの構造
アストロラーベは複数のパーツから成り立っています。
まず「メーター(Mater)」と呼ばれる中空の円盤があります。
これはアストロラーベの土台のようなもので、メーターの縁の外周には、時刻メモリや角度メモリが刻まれています。
そしてメーターの内側には、「ティンパン(Tympan)」と呼ばれる平らな板が入っており、高度・方位を表す線が等間隔で刻まれています。
通常、1つのアストロラーベには緯度別に複数のティンパンが備わっており、現在地に対応した緯度のティンパンを入れ替えて用います。
またメーターとティンパンの上には、「リート(Rete)」と呼ばれる星の位置を示す回転盤が備わっています。
このリートは透かし彫りで作られており、複数の針が美しい模様を作りながら縁から伸びています。
そしてこれらの針の先が示すのは、主だった恒星の位置です。
リートを、星座早見盤のように回転させて使用することで、現在の星空を把握することができるのです。
ちなみに、どの恒星を含めるかは特に決まっておらず、恒星(針)の数も10~100個以上と幅があります。
アストロラーベを構成するパーツの中でも、特にリートは目立つ存在であり、デザイン性を重視した美しいリートが数多く存在しているようです。
(リートの上には、赤緯の目盛りが付いた時計の針のようなパーツ「ルーラ」が付属することもあります)
最近では、このリートを分析することで、アストロラーベの製造年代を知ることもできるようです。
星の位置を示すパーツが製造年代を明らかにする
エマニュエル・ダヴースト氏は、フランスの都市トゥールーズにあるミディ=ピレネー天文台(OMP)に所属する天文学者です。
最近彼は、同じくトゥールーズにあるポール・デュピュイ美術館に保管されたアストロラーベを分析しました。
彼が特に着目したのは、アストロラーベのパーツの1つであり、恒星の位置を示す「リート」です。
このリートには、34個の針があり、同じ数だけの恒星の位置を示しています。
そしてなんと彼は、リートの分析により、このアストロラーベがいつ製作されたのかを明らかにすることができました。
製造年が彫られているわけでもないのに、どうしてそのようなことが可能なのでしょうか?
地球の自転軸は常に同じ方向を向いているわけではなく、下図のように約23.4°傾いています。
これを歳差運動と言いますが、この運動により、「春分点(すべての恒星の位置の基準となる点)」の位置は定期的に変化します。
また恒星自体も、固有運動と呼ばれる変化により、非常にゆっくりとその位置(天体を観測した際の座標値)を変えています。
つまり、時間の経過により恒星の座標は変化しており、この違いが特定のアストロラーベがいつ製作されたかを知るカギとなるようです。
今回、ダヴースト氏は、1400年から1700年の間の恒星の座標を50年ごとに算出し、ポール・デュピュイ美術館にあるアストロラーベの34点の座標と比較しました。
その結果、このアストロラーベが作られたのは1550年である可能性が高いと分かりました。
このように、天文学を用いた歴史調査が可能だという点も、アストロラーベが持つ魅力の1つなのです。
もし、古代のナビゲーション機器である「アストロラーベ」を目にする機会があるなら、ぜひ、その精巧さやデザインの美しさ、そして天文学における歴史の深さを感じ取ってみてください。
参考文献
The Positions of Stars on an Ancient Navigation Device Tell us When it was Made
Astrolabe
元論文
Dating of a Latin astrolabe
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部