罹患者の脳組織の一部を注射するとアルツハイマー病に感染

実験用マウス
実験用マウス / credit:フォトAC

アルツハイマー病はアミロイドβというタンパク質が脳に溜まることで発症するとされていますが、アルツハイマー患者の脳にアミロイドβが増えて溜まってしまう機構はわかっていません。

ただ、同じようにタンパク質が溜まることで起こる脳の病気に感染性因子である異常プリオンが増殖してしまうプリオン病があります。

プリオン病には前述のクロイツフェルト・ヤコブ病や、この変異型で牛肉を食べるだけで感染してしまう狂牛病なども含まれます。

このため、研究グループはアルツハイマー病罹患者のアミロイドβも体内に入ることでプリオンのように脳内で増殖するのではないかと考えました。

そこで、アルツハイマー病に罹患したマウスのアミロイドβを健康なマウスの脳に注射したところ、注射を受けたマウスはアミロイドβが増え、アルツハイマー病特有のアミロイド斑が発生しました。

この結果からも、成長ホルモンの治療においてアルツハイマー病が脳組織の一部を注射することで感染した可能性は十分に高いと言えます。

若年性アルツハイマー病の原因特定の一助に

アルツハイマー病治療の一助に
アルツハイマー病治療の一助に / credit:Pixabay

アルツハイマー病が「伝染」すると言われると怖くなってしまいますが、これは脳組織を介してのものであり、アルツハイマー病に罹患した人の脳組織を注射されたり、移植されたりしない限りは起こりえないことです。

現在は前述した成長ホルモン治療も行われておらず、手術時の器具の消毒なども十分になされているのでアルツハイマー病の「伝染」を恐れる必要はありません。

むしろこの研究はアルツハイマー病に罹患する原因究明の一助となるものであり、今後アルツハイマー病予防に役立つ可能性があります。

参考文献

First evidence of human-to-human transmission of Alzheimer’s disease

元論文

Iatrogenic Alzheimer’s disease in recipients of cadaveric pituitary-derived growth hormone

ライター

いわさきはるか: 生き物大好きな理系ライター。文鳥、ウズラ、熱帯魚などたくさんの生き物に囲まれて幼少期を過ごし、大学時代はウサギを飼育。大学院までごはんの研究をしていた食いしん坊です。3人の子供と猫に囲まれながら、生き物・教育・料理などについて執筆中。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。