ドイツのここ数年の対中政策を少し振り返る。
ジグマ―ル・ガブリエル独外相(当時)は2018年2月17日、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」(One Belt,One Road)構想に言及し、「民主主義、自由の精神とは一致しない。西側諸国はそれに代わる選択肢を構築する必要がある。中国はロシアと並び欧州の統合を崩そうと腐心し、欧州の個々の国の指導者を勧誘している。新シルクロードはマルコポーロの感傷的な思いではなく、中国の国益に奉仕する包括的なシステム開発に寄与するものだ。もはや、単なる経済的エリアの問題ではない。欧米の価値体系、社会モデルと対抗する包括的システムを構築してきている。そのシステムは自由、民主主義、人権を土台とはしていない」とはっきりと警告を発している(「独外相、中国の『一帯一路』を批判」2018年3月4日参考)。
また、アンナレーナ・ベアボック外相(「緑の党」出身)は昨年9月14日、テキサスを訪問中に米国のFOXニュースとのインタビューに応じ、「ロシアのプーチン大統領が戦争に勝った場合、中国の習近平国家主席のような他国の独裁者たちにとってどのようなシグナルを送ることになるだろうか。だからこそウクライナはこの戦争に勝たなければならないのだ」と述べ、習近平国家主席をはっきりと独裁者と呼んでいる。
その一方、ショルツ連立政権は2022年10月26日、ドイツ最大の港、ハンブルク湾港の4つあるターミナルの一つの株式を中国国有海運大手「中国遠洋運輸(COSCO)」が取得することを承認する閣議決定を行った。同決定に対し、「中国国有企業による買収は欧州の経済安全保障への脅威だ」という警戒論がショルツ政権内ばかりか、EU内でも聞かれた(「独『首相府と外務省』対中政策で対立」2023年4月21日参考)。
ちなみに、16年間の長期政権を維持したアンゲラ・メルケル前首相は16年間の任期中、12回訪中し、中国共産党政権に対し融和政策を展開、経済関係を深めた。その意味で、バイエルン州のゼーダー州首相の訪中とその現実政治はメルケル前政権の延長ともいえる(「輸出大国ドイツの『対中政策』の行方」2021年11月11日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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