ドイツ南部バイエルン州のマルクス・ゼーダー首相(57)の訪中は予想通りメディアの注目を浴びた。ゼーダー首相にとっては、①「キリスト教社会同盟」(CSU)党首として次期連邦首相の座を狙う布石としての外交面の実績作り②バイエルン州の対中貿易の拡大――という2点の目標があったのだろう。中国ではナンバー2の李強首相との会談も実現し、中国成都のパンダ繁殖基地を訪問し、パンダにも挨拶、「とてもかわいい動物たちだ」と興奮が止まらなかったという。ゼーダー首相とパンダとの出会いはソーシャルネットワークでも大きく報道されて人気を呼んだ。
一方、中国側としては、ドイツの次期連邦首相候補者として「キリスト教民主同盟」(CDU)のメルツ首相と共に名前が挙がっている政治家だけに、将来のドイツとの関係強化へ一種の”保険”’を掛けるという意味もあって、ゼーダー首相をもてなした。
ドイツの国民経済は現在、深刻なリセッション(景気後退)だ。インフレは落ち着いてきたが、エネルギーコスト高やウクライナ戦争の影響もあって産業界は青息吐息だ。ドイツ政府は2月21日、2024年の実質成長率を0.2%と下方修正したばかりだ。輸出国のドイツにとって最大の貿易相手国中国経済の低迷は大きい。
そのような中、バイエルン州からゼーダー首相が訪中した。ウイグル系民族への弾圧など人権問題を抱える中国を訪問することに対して批判の声があった。例えば、連邦議会外務委員会のミヒャエル・ロート委員長(社会民主党=SPD)は「ターゲスシュピーゲル紙」とのインタビューで、①ゼーダー首相は中国の共産主義指導部に対する対応が甘い②ドイツと欧州の外交政策に損害を与えた、と非難、「ゼーダー氏は、第2の外交政策を追求しようとした最初の州政治家ではないが、失敗した。ゼーダー氏はバイエルン州と中国共産党政権との間には対等のパートナーシップがあると述べたが、全くの誇大妄想に過ぎない」と厳しく批判している。
それに対し、ゼーダー首相はビルト日曜版で、「対立や批判より交流の方が長期的な結果を生む」と強調し、「他国が撤退する一方、我々は国際的な接触を強化する。国際危機の際には、信頼性の高いコミュニケーションが特に必要だ」と持論を展開し、「私たちは道徳政治ではなく現実政治を行っている。私たちは海外におけるバイエルン州の利益を代表し、経済への扉を開いている」と反論している。
ゼーダー氏の訪中は、昨年ミュンヘンを訪問した李強首相がゼーダー氏を招待したのを受けたものだ。同氏はバイエルン州経済にとっての中国の重要性を知っている。中国はバイエルン州にとって最も重要な貿易相手国だ。BMWやシーメンスなど、数多くの企業が中国で活動している。バイエルン州は中国との緊密な政治的接触を維持しており、現在では四川省を含む3つの省とパートナーを締結している(ドイツ民間ニュース専門局ntvのウェブサイト2024年03月25日)。