世界的にEV(電気自動車)シフトの流れが減速するなか、トヨタ自動車が2026年のEVの世界生産台数を従来の計画より3割引き下げ、100万台程度にすることがわかり、衝撃が走っている。世界の主要メーカーの間で同様にEV販売計画の縮小・撤回の動きが相次ぐなか、ガソリン車回帰の動きが進むという指摘もなされている。背景に何があるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
EV一辺倒の姿勢をみせる自動車メーカーも多いなか、トヨタは全方位戦略をとり、26年までに世界で年間150万台のEVを販売するとの目標を公表していた。この計画数値を3割引き下げて100万台程度にする。
背景には世界的なEV販売の失速がある。欧州自動車工業会(ACEA)が発表した24年1~6月の欧州主要18カ国の新車販売(乗用車)では、EVは前年同期比1.6%増とほぼ横ばいとなり、23年1~6月の同45.0%増から大幅に縮小。英調査会社グローバルデータの発表によれば、23年のEV世界販売台数は977万台と前年比32%増であり、22年の同65%増と比べて伸び幅は縮小している。
こうした変化に世界の自動車メーカーも相次いで対応。独メルセデス・ベンツは2月、30年に新車販売のすべてをEVにするとしていた目標を撤回し、20年代後半にxEV(EVとプラグインHEV)を50%にすると修正。米フォード・モーターはカナダの工場で25年から予定していたEV生産を27年に延期し、代わりにガソリンエンジン搭載車のピックアップトラックを生産すると発表。米ゼネラル・モーターズはPHVの生産を27年までに再開すると発表しており、ミシガン州の工場での電動ピックアップトラックの生産拡大の延期を発表している。
そして今月に入り、スウェーデンの自動車メーカー、ボルボ・カーは、30年までに販売する車をすべてEVにする計画を撤回。独フォルクスワーゲン(VW)は、ドイツ国内で初となる工場の閉鎖を検討していることを公表。その理由についてEV投資が重荷となっていることをあげている。
ちなみに日本市場にいたっては、24年1~6月に販売された新車全体に占めるEVの割合がわずか1.6%にとどまっており(日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会の発表による)、普及は程遠い。
欧州の誤算
なぜEVの販売は伸びないのか。自動車メーカー関係者はいう。
「価格はガソリン車より高く、HVよりも2~3割ほど高いのに加え、流通量が少ないため部品が出回っておらず故障時の修理代が高額になる傾向があり、構造がエンジン車とは大きく異なるため修理自体が整備工場でできない可能性もある。充電ステーションも少なく、特に地方では選択肢になりにくいし、寒さに弱いという評判もあるため寒冷地では避けられる。中古車市場でも需要が少ないため、下取り価格がエンジン車と比べて低くなることも想定される」(24年7月25日付当サイト記事より)
既存の大手自動車メーカーにとっても、EVが市場の主流になることによるメリットは少ない。
「製造コストのうち大きな部分を占める車載電池の原材料であるレアメタル・レアアースは、埋蔵地が途上国に偏っており、調達には地政学的なリスクが伴う。安定的な調達のため中国は政府が主導するかたちで埋蔵国の囲い込みを進めており、欧米や日本の大手メーカーですら原材料の調達に苦労し始めている。既存の大手自動車メーカーにしてみれば、エンジン車と比べて使用する部品が少なく製造が容易なEVが台頭すれば、ベンチャーや他業種企業の参入により優位性を失ってシェアを食われる可能性もあり、参入障壁が高いエンジン車が市場の主力であり続けるほうが都合が良い。
また、欧州がEVにシフトしたのは、ディーゼルエンジン不正でフォルクスワーゲンをはじめとする欧州の自動車メーカーが脱ディーゼルエンジンに舵を切らざるを得なくなったからだが、蓋を開けてみれば世界のEV市場では中国勢の席巻を許す結果となってしまった。そのため、自国の自動車産業保護のためにEV推進を転換させる可能性も十分にある。
もっとも、原材料の調達から製造、走行、廃棄までをトータルに考えると、EVのほうがガソリンエンジン車より環境負荷が低いとはいえず、そうなるとEV推進の大義がなくなるので、各国政府は自ずとEV推進の旗を降ろさざるを得なくなる」(同)
特に日本で問題となってくるのが、EVのリセールバリューの低さだ。日本では車を買い替える際は古い車を売って、そこで得た資金を新しい車の購入費用に充てるというのが一般的だが、再販価格が低いと次の車の取得コストが事実上上昇するので、EV購入が避けられる要因となる。