まず事実として、日本は再エネ後進国ではありません。再エネ発電電設備容量は世界第6位で、太陽光発電量は世界第3位です。

エネルギーの今を知る10の質問 – 資源エネルギー庁

ちなみに、再エネ導入が最も進んでいるデンマークは、世界一高額の電気料金となっています。しかも、太陽光や風力などの変動性再生可能エネルギーの導入割合が多い国(上図では黄緑で示されています)は、エネルギー危機に滅法弱いと言えます。世界各国の電気料金の変動を示す次の図を見て下さい。

[燃料価格の上昇と主要国の電気料金 電力中央研究所]

デンマーク・ドイツ・スペイン・イタリア・英国など再エネ比率が高い国々は、ウクライナ危機でLNG価格が高騰したことで深刻な影響を受けています。再エネの変動を調整するには火力発電が必要なのです。その一方で、フランス・米国・カナダなど再エネ比率が低い国々は安定しています。

さて、この番組で恐ろしかったのはこの後に始まった中国礼賛です。

羽鳥慎一氏:国という意味では、やっぱり「中国は凄いな!」というところです。中国は石炭が60.8%なんですけれど、再生可能エネルギーも29.1%、今の日本よりも割合高いです!この再生可能エネルギーの中、水力・風力・太陽光などが、多くなっています。割合は29.1ですけれど、発電量で行くと、15年連続世界一位!これが中国なんですね。なんでなのか。国です。国が進めている。政府が産業として後押ししている「金太陽プロジェクト」というのが2009年から始まっておりまして、太陽光発電事業に対して最大70%の補助金を支給しますと。再生可能エネルギーに関する支出予算、去年1.6兆円です!そして太陽光パネルを設置する所でも中国は工夫をしています。設置する広大な空き地に一緒にクコの実を栽培しましょうと。世界最大の水上発電所の所で一緒に魚の養殖をしましょうと。いろいろ工夫をしている。大林さん、中国は相当力を入れていると。国として。

大林ミカ氏:はい。国家戦略として、自然エネルギーを産業として投資して、世界でのリーダーシップをとるということが明確になっていると思います。導入量も凄くて、昨年新しく導入された世界全体の発電設備のうち、8割が自然エネルギーだったのですけど、そのうち半分以上は中国で導入されていると。他の国が20年かけて導入する自然エネルギーの量を1年で導入するというのを、もう繰り返している。産業としても非常に有効で、競争力があるものを世界に提供している。

中国の再エネ比率が日本より高いのは、水力発電の割合が高いからであり、太陽光や風力などの変動性再生可能エネルギーの割合は日本よりも低い値です。

日本については、変動性再生可能エネルギーの割合で評価して「再エネ後進国」と罵倒したのに対して、中国様については、発電量で評価して「中国は凄いな!」と絶賛したわけです(笑)。こんなおバカなゴマすり番組は見たことありません。

羽鳥慎一氏:再生可能エネルギーに力を入れると、世界でリーダーシップ取れますよという判断なわけですよね。

大林ミカ氏:はい。結局、自然エネルギーで発電していますから、エネルギーがタダですよね。だから、エネルギーの自給率が高まり、安定性が高まる。で、それを中国も機器を提供することによってビジネスにし、自らも再生可能エネルギーを大胆に増やしていくよいう目標値を中国も掲げています。

玉川徹氏:そうなんですよね。エネルギーの安全保障の問題で言っても、日本って9割以上のエネルギーを海外から輸入しているわけ。だから台湾海峡なんかで問題があったら止まっちゃう。すべて日本の生命線が海外に依存している。

浜田敬子氏:そういうことを、いかに国のリーダーとか自治体のリーダーが決断できるか。やっぱり」中国なんか、停電が問題になっていますが、コロナ後の一気の電力の需要で、すごく難しい過渡期だと思います。再エネを増やしていくのが間に合わないから、いまエネルギーが足りなくて電力不足となっていますが、それでも彼らは歩みを辞めないと思う。そこがリーダーの決断だなと。

羽鳥慎一氏:だから、環境の問題もあり、安全保障の問題もあり、そしてビジネスの問題もありと。ただ脱原発だけじゃないということですね。再生エネルギーを考えるということは。

大林ミカ氏:まさにそうだと思います。

大林氏は再エネが「タダ」と言いましたが、再エネには他の発電形式よりも大きな資本費がかかります。必ずしもエネルギーコストに精通していない国民をバカにした恐ろしいミスリードです。

[電気をつくるには、どんなコストがかかる? 資源エネルギー庁]

こんなことを言い出す人物が、再生可能エネルギーに関する規制見直しを目指す内閣府のタスクフォースで発言していたことは、日本国民にとって極めて大きなリスクですし、テレビがこのようなバカげた発言へのチェック能力が皆無なことにも恐ろしさを感じます。

何よりも、エネルギー安全保障を問題視するなら、迂回可能な台湾海峡有事ではなく、大林ミカ氏が提案する「アジアスーパーグリッド構想」でしょ(笑)。また、先述したように再エネ比率を高くすると、化石エネルギーの価格高騰にも滅法弱いです。さらに言えば、停電をものともせずに再エネに突き進むなど、精密製品を取り扱う工業国の日本には到底できません。おバカも休み休み言って下さい(笑)

ちなみに、羽鳥慎一モーニングショーでは、2023年02月01日にも大林ミカ氏を権威とする次のようなコメントがありました。

玉川徹氏:結構多くの方が「そんなに再エネ再エネと言ったって賄えるわけないじゃないか、そんな太陽の光とか風で」と思っている人がいるが、実はここに出ているのは、環境省の出している資料です。

環境省が発電能力のポテンシャル、要するにどれくらいの潜在能力があるか、それも、ただ単にここは風が一杯吹いているところを全部やればということではなくて、事業可能な範囲内でのポテンシャルを試算している。その試算に関わった自然エネルギー財団の大林さんに話を伺ったが、今どれだけ使っているかというと、大体1兆kWh、日本で1年間に1兆。では事業可能なポテンシャルはどれだけあるかと言えば、ポテンシャルを上回っている。

このような「kWhの年積算量」をもって「100%補うことは十分可能」などという無責任な暴論をいまだに言い続けることに対して、科学的・工学的常識を疑いますし[記事]、このような国民に大きな経済的損失を与えかねない無理やりのミスリードを放送することに何かしらの隠蔽された目的を感じざるを得ません。

極めてナイーヴな知識しか持ち合わせていないにも拘らず、日本のエネルギー行政に口を出して、社会を破壊する日本の活動家とテレビには、本当に強い欺瞞を感じます。

つい最近もTBSで大林ミカ氏出演の[再エネ崇拝放送]がありました。こんな放送をして喜ぶのは、地球環境を破壊し続ける一方で、日欧などの意識高い系の国に対して環境ビジネスを展開している中華人民共和国だけです。日本国民を大衆操作するのは、いい加減やめていただきたく思います。。

編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2024年3月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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