イメージが鮮明に浮かぶ「ハイパーファンタジア」とは?
アファンタジアとは対照的に、ハイパーファンタジアは目の前にないイメージを頭の中で極めて鮮明かつ緻密に視覚化できる状態を指します。
この名称も同じく、エクセター大学のアダム・ゼマン氏が命名したものです。
ハイパーファンタジアは、単に「視覚的な想像力に優れている」というのとは一線を画します。
専門家らは、ハイパーファンタジアについて「非常に鮮明な夢を見たときのように、それが現実か想像されたものなのか区別がつかなくなる場合がある」と評します。
例えば、ある一つの風景を空想するとき、「大きな山があってその前を川が流れている」といったぼんやりしたレベルではなく、その風景の中に生えている草木の一本一本や空を飛んでいる鳥の羽毛まで鮮明に見えているというのです。
オランダ出身でロンドン在住のジェラルディン・ファン・ヘムストラ(Geraldine van Heemstra)さんは、ハイパーファンタジアの持ち主として有名な画家です。
彼女は幼少期から他の人とは異なる「途方もない想像力(enormous imagination)」を持っていて、頭の中で一つの村全体を作り上げていたといいます。
また、アルファベットや数字のそれぞれに色が見えており、学校の算数のテストで、隣り合わせに並んだ数字の色の組み合わせが間違っているように見えたので、勝手に数字の答えの並びを変えてしまっていたそうです。
今でも音楽家の演奏やダンサーのパフォーマンスを見ていると、そのリズムや体の動きに合わせて、特定の色が見えるといいます。
彼女の作品はこちらから閲覧できます。
ジェラルディンさんによれば、頭の中で視覚化された風景の中を自由に歩き回ることもできれば、その風景の中の色んな場所に立って、違う角度から景色を眺め渡すことも可能だという。
自宅で何かをする計画を立てているときでさえ、その未来の場所の中に飛ばされたような気分になるとのこと。
これは先ほどのアファンタジアとは正反対の現象です。
ハイパーファンタジアの持ち主は、ジェラルディンさんのように芸術的に優れた能力を発揮することが多いですが、反対に何もかもが鮮明に可視化されてしまうので、現在の今この瞬間に集中できず、注意散漫になりやすいといわれています。
それから過剰な視覚化から脳への負担も大きく、ジェラルディンさんも時々、脳の過度な働きから眠れなくなる日もあると話します。
このように、イメージが視覚化できない「アファンタジア」や、イメージが鮮明に見えすぎてしまう「ハイパーファンタジア」には共にメリットもあればデメリットもあります。
しかし、いずれも認知機能の異常を原因とするような疾患ではなく、「イメージの視覚化」において人間の幅の広さがあることを物語る不思議な脳の現象なのです。
参考文献
Aphantasia: Why I cannot picture my children in my mind
Hyperphantasia: The Truth About Photorealistic Imagination
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。