眠れない夜に頭の中で羊を数えたことはないでしょうか?
私たちは普通、目の前にない物でも頭の中にイメージして視覚化する能力を持っています。
ところがこの頭の中で羊を数えるという行為が理解できないという人たちがいます。人口の約2〜5%存在するとされるこの人たちは、視覚的なイメージをまったく頭に思い浮かべることができません。
これを「アファンタジア(Aphantasia)」と呼びます。
そしてさらに、世の中にはこれと正反対の性質を持つ人達もいます。人口の約3%に含まれるとされるこの人たちは、視覚的なイメージを極めて鮮明かつ緻密に思い浮かべることができ、これは「ハイパーファンタジア(Hyperphantasia)」と呼ばれています。
このハイパーファンタジアはあまりに物事が鮮明にイメージできてしまうために、現実と想像を区別するのが困難になるといいます。
今回はこのイメージの視覚化に関する両極端な能力の持ち主たちについて解説していきます。
アファンタジアが経験する世界とは?
アファンタジアは2015年に、英エクセター大学(University of Exeter)の神経学者であるアダム・ゼマン(Adam Zeman)氏によって考案された言葉です。
1880年には最初の報告例があったとされていますが、最近まで正式な研究はほとんど行われていませんでした。
アファンタジアは目の前にいない人や物、風景などをイメージとして頭の中に視覚化できない状態を指します。
例えば、ほとんどの人は家族の顔や友人と行った旅行先の景色を思い出して、頭の中に思い描くことができるでしょう。
しかしアファンタジアでは、家族や友人と行った旅行の記憶はあるものの、その具体的なイメージを視覚的に再現することができません。
イングランド南西部グロスタシャーに住むメアリー・ワーゼン(Mary Wathen)さんは実際にアファンタジアの持ち主の1人です。
彼女は、他の人たちが目の前にない物のイメージを頭の中で作り出せることが信じられないといいます。
「そのイメージがどこにあって、どのように見えているのか、私にはその真意が理解できませんし、私にとって目に見ることができないものは、どこにも存在しないものなのです」と話します。
メアリーさんは結婚式のような人生のビッグイベントでも、その情景を思い描くことはないといいます。
また2人の幼い息子の顔でさえ、一緒にいない限りは想像すらできません。
それから小説なども場面ごとの情景を思い浮かべることができないので、読むのに苦労するという。
そうした状態についてメアリーさんは「私にはすべての記憶が保持されていますが、他の人とはまったく違う形で思い出しています。
いわば、記憶のハードウェアは正常に動作しているものの、モニターの電源が入っていないようなものです」と説明します。
ただ、アファンタジアにも生活する上で利点があるようです。
というのもアファンタジアはイメージの回想や空想ができないので、過去や未来にこだわることが少なく、現在の今この瞬間に集中する力が強くなります。
また、自分が失敗したり事故を起こすようなマイナスイメージも浮かばないので、これから挑戦することに対して不安や恐怖、ストレスを感じにくいのです。
メアリーさんは「私は目の前にある現実だけを見ていて、1分前に何を見たか、1時間後に何を見るかは関係ありません」と話します。
しかし世の中には、これと対極の位置にある性質も存在します。
それが「ハイパーファンタジア」と呼ばれる人たちで、彼らは逆に鮮明に物ごとがイメージできすぎてしまい、現実と想像が区別できなくなるというのです。