弾丸の速度が小さければ失血による死亡率が低下する
生命維持に関与する「脳幹」が弾丸によって損傷し、人が即死する確率はそこまで高くありません。
つまり多くの場合、頭を撃ち抜かれた人が死ぬ原因は他にあります。
それは失血死です。
そして失われる血液の量は、弾丸のサイズと速度に直接影響を受けます。
ここで物理学の観点から弾丸の威力を考えてみましょう。
「速度 v」で運動する「質量 m」の弾丸の「運動エネルギー K」は、次の式で表せます。
この式からすると、弾丸の質量が2倍になるとエネルギーも2倍になると分かります。
一方、弾丸の速度は、エネルギーに対する二次関数となっており、速度が増えるほどエネルギーが非常に大きくなっていきます。
つまりヘッドショットにおける死亡率がより影響を受けるのは、弾丸の速度であり、これはどんな銃器が使用されるかで決まります。
例えば、世界中で広く使用されているAK-47から発射される弾丸は、2580km/hにもなり、致命的です。
一方、拳銃から発射される弾丸は約1000km/hであり、比較的遅いようです。
そして発射してから時間が経てば経つほど、弾丸のエネルギーは失われます。
そのため物理学の観点から生き残りやすいケースに該当するのは、「経口が小さい拳銃で遠くから撃たれる」という状況です。
仮に頭部を撃たれても、呼吸が続いており、血圧が下がりすぎなければ、医師の早急な治療により助かる可能性があるのです。
実際、頭部への銃撃を経験したにもかかわらず、命が助かった例はいくつも存在します。
例えば、2009年に40代の女性であるクリステン氏は人生に絶望し、自ら拳銃の銃口を顎の下に突きつけ、引き金を引きました。
彼女は、顔の大部分が吹き飛ばされ、多く歯と片目を失いましたが、それでも奇跡的に生き残りました。
長い間、自分で食事をしたり、話したりすることはできませんでしたが、それでも数年後には、この自殺未遂の経緯を自分で語ることができたようです。
また1999年には、コロンバイン高校銃乱射事件において、被害にあった人々の1人であるパトリック・アイルランド氏は、足だけでなく頭部を銃撃され、その弾丸は脳を貫通しました。
当初は助かる見込みがないとされていましたが、後に、足をわずかに引きずる以外は完全に回復し、卒業後は金融分野の仕事に就くことさえできたようです。
生物学や物理学、そしていくつかの実例からすると、頭部に銃撃を受けたからといって必ずしも死ぬわけではないと言えます。
頭部が銃撃に対して致命的な箇所である事実は変わりません。しかし、もし頭部に銃撃を受けて倒れた人を目の当たりにしたとしても、即座に諦めず助けを求める努力はするべきでしょう。
ヘッドショット、イコール死ではないのです。
参考文献
Gunshot To The Head: Does It Always Mean Instant Death?
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。