記事に「財務諸表」との語があるが、それには損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)の3種がある。PLは一定期間(年間、半期、四半期)の収益(売上)と費用(原価)及びその差し引き利益を表す。CFも一定期間のキャッシュ(現金)の収支を表している。

BSは各期末の資産(左側)と負債(右上)とこれらを差し引いた純資産(右下)の残高を表す。この残高には、対象期間の事業活動の結果としてのPLとCFが反映される。企業の価値をBS(帳簿)上の純資産(簿価純資産)と考えれば、有価証券報告書だけで誰でも企業価値を知ることができる。

が、そう単純ではないのは、資産も負債も時価に換算する必要があるからだ。例えば固定資産である土地ひとつとっても、帳簿には購入時の価格が記されているが、土地の路線価は値上がりもすれば値下がりもするし、競争入札すれば路線価の何割増しかで落札するかも知れない(落札価格=時価)。

この様に、全ての資産と負債を時価で見積もった結果の純資産を時価純資産という。トランプタワーのペントハウスの場合、面積は検証できるが競争入札した場合の落札価格は入札してみないと判らない。従って客観的に見積もることになるが、複数の客観データのどれを選ぶかにも必ず主観が入る。

エンゴロン判事は「(被告は)評価は主観的なものという」と難じるが、借り手の評価に主観が入るのは当然のことだ。だから「貸し手」も「自ら調査・吟味」して両者のネゴが行われ、双方が得をしたと思う価額に落ち着くのである。こんな当たり前のことを知らないのが判事の職業病なのだろう。

時価純資産の見積もりはまだ易しい方で、他にもEBITDA倍率法とか現在価値法とか難解なのがある。EBITDAは「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の頭文字で、税(Tax)引前利益に支払利息(Interest)と償却費(Depreciation and Amortization)を加えた利益(Earning)のこと。

その倍率は、余り成長が見込めない成熟産業の場合はEBITDAの3倍(3年分)とか、将来性の見込める成長産業なら10倍(10年分)とかいった具合に双方がネゴして、買収価格が決まる。従って、EBITDA倍率といえども売り手と買い手の「主観」のぶつかり合いで決まることに変わりはない。

現在価値法は、例えば10年後までの毎年のCFを予想し、その10年間の金利(例えば3%とか5%とか)を織り込んで10年後の価値を現在の価値(NPV=正味現在価値)に割も戻して算出する。この場合も、10年間のCFの額も金利も「主観」で決める訳だから、結局は売り手と買い手のネゴになる。

繰り返しになるが、企業の価値は、その算出方法を含めて売り手と買い手(トランプの場合は金融機関と「TO」)のネゴで決まる。従って、より強くその取引を完了したいと思う側が譲歩することによって、双方の思惑の間の価額で決着することになる。これは何の商取引でもいえることだ。

以上、拙い説明で恐縮だが結論をいえば、そもそも誰一人損をしていない、つまり被害者のいない(判事は州の税収に影響したと主張する?)訴訟が起き、何週間も審理されること自体が異常ではなかろうか。連邦でも各州でも、民主党がこんな訴訟ばかりしているから、それらを「司法の武器化」と断罪するトランプの支持率がますます上がるのだ。

米国民の評価は、「J6」(議事堂襲撃)でもハンター・バイデンのラップトップでも、真相が明らかになるに従い相応に変化する。折しもジュリアーニを破産に追い込んだジョージア州のRICO訴訟を担当するフルトン郡検事ファニ・ウィリスに、彼女が任用した郡の特別検察官との愛人関係が発覚したり、投票機の審議が始まったりしている。

「J6」訴訟などを指揮するジャック・スミス司法省特別検察官に対しても、12月22日に元司法長官と2人の憲法学者が、スミスの立場は「連邦議会が創設していない役職に就いているため違憲」なので「トランプ氏を訴追する米国を代表する権限がない」と主張する法廷準備書を連邦最高裁に提出した。

これらも踏まえて筆者は、仮にエンゴロン判事が本件で有罪判決を出したとしても、トランプは連邦最高裁で無罪になるとみている。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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