イランの元副大統領モハメド・アリ・アブタヒ氏はドイツ通信(DPA)とのインタビューで、「守護評議会が共和国を解体した。現在、多数の原理主義者が国の運命を握っている。国民は選挙に対する信頼を失っている」と述べている。

ライシ大統領を代表とした保守聖職者支配政権に対する国民の不信感が強い。22歳のクルド系イラン人のマーサー・アミニさん(Mahsa Amini)が2022年9月、イスラムの教えに基づいて正しくヒジャブを着用していなかったという理由で風紀警察に拘束され、刑務所で尋問を受けた後、意識不明に陥り、同月16日、病院で死去したことが報じられると、イラン全土で女性の権利などを要求した抗議デモが広がっていった。それに対し、治安部隊が動員され、強権でデモ参加者を鎮圧してきた。

イラン各地で始まった抗議デモで多数の国民が逮捕され、処刑されてきた。米国を拠点とする組織、人権活動家通信社(HRANA)の報告によると、合計で約2万人以上が逮捕され、多数が死刑判決を受けている。その中には未成年者71人が含まれる。路上デモに参加した者の中にも既に7人が処刑された。イラン当局は国民の抗議デモの拡大を受け、風紀警察の監視を一時中断したが、抗議デモが静まると再び活動を開始している。

イランの国民経済は厳しい。多数の国民は厳しい経済事情を抱えている。その一方イラン当局はパレスチナ自治区ガザのイスラム過激テロ組織ハマス、レバノンのイスラム根本主義組織ヒズボラ、イエメンの反体制派民兵組織フーシ派への武器、軍事支援をし、シリアの内戦時にはロシアと共にアサド政権を擁護するなど、多くの財源を軍事活動に投入している。

オーストリア国営放送のイラン特派員は一人の中年のイラン男性にインタビューしていたが、同男性は、「政府は自身のためや軍事活動に多くの資金を使うが、国民のためには使わない」と述べていた。イランでは若い青年層の失業率が高く、物価は年率約40%と上昇。多くの国民は「明日はよくなる」といった思いが持てない。特に、ソーシャルネットワークで育った若者は、イスラム革命のイデオロギーに共感することがない。選挙後、聖職者統治政権と国民の間の溝は更に深まることが予想される。

なお、議会選と同時に実施された「専門家評議会」メンバーの選挙はイランの今後の政情を見る上で重要だ。憲法によれば、専門家評議会はイランの最高職である最高宗教指導者の活動を監督し、同指導者を終身選挙で選出する。現職の最高指導者が職務を遂行できなくなった場合、解任する権限も持っている。イラン当局に厳選された144人が今回立候補し、そのうち88人が選ばれる。

最高指導者のポストは現在、ホメイニ師の後継者のハメネイ師が務めている。84歳のハメネイ師は健康状態が悪いとみられており、後継者問題は近い将来、大きなテーマだ。後継者の有力候補者には保守派の指導者、ライシ大統領の名が挙がっている。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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