党支持別の動向を見ると、SPD、緑の党、FDP、CDU/CSUの支持者の大多数は、「プーチン大統領はウクライナに勝利すれば、NATO諸国に侵攻する」と信じている。一方、AfDとBSWの支持者の大多数は、「ロシアの攻撃は問題外だ」と考えている。ショルツ連立政権の3与党と野党第1党のCDU/CSUの支持者はロシアのNATO諸国への攻撃を現実的なシナリオと感じる一方、AfDとBSWの支持者は「侵攻はあり得る」と答えたのは25%に過ぎなかった(データは、RTL Deutschlandの要請を受け、市場世論調査機関ForsaがRTL/ntvトレンドバロメーターのために4月5日と8日に収集したもの。回答者1009人)。
ドイツでは第2次世界大戦終了後、連邦軍は職業軍人と志願兵で構成されたが、兵士が集まらないこと、旧ソ連・東欧共産ブロックとの対立もあって1956年から徴兵制を施行、18歳以上の男子に9カ月間の兵役の義務を課してきた。兵役拒否は可能で、その場合、病院や介護施設での社会福祉活動が義務付けられた。
その徴兵制は2011年、廃止された。徴兵の代行だった社会奉仕活動制度もなくなった。冷戦時代が終了し、旧東独と旧西独の再統一もあって、連邦軍は職業軍人と志願兵に戻り、連邦軍の総兵力は約25万人から約18万5000人に縮小された。旧ソ連・東欧共産政権が崩壊していく中、ドイツを含む欧州諸国は軍事費を縮小する一方、社会福祉関連予算を広げていった。
その流れが大きく変わったのはやはりロシア軍のウクライナ侵攻だ。ショルツ独首相は2022年2月、「時代の転換」(Zeitenwende)を宣言し、軍事費を大幅に増額する方向に乗り出した。連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達などの計画が発表された。そして国防予算は国内総生産(GDP)比2%に増額する一方、軍事大国ロシアと対峙するウクライナに武器を供与してきた。
参考までに、ピストリウス独国防相は未来の徴兵制として「スウェーデン・モデル」を考えているといわれている。スウェーデンでは2010年に徴兵制が停止されたが、ロシアのクリミア併合を契機として、2018年1月から徴兵制が再導入された。スウェーデンの徴兵制は、兵役、一般役務、民間代替役務から構成され、18歳以上の男女を対象としている。
ちなみに、世論調査機関フォルサは今年2月、「戦争が発生したら武器を持って戦う用意があるか」という質問を聞いた。その結果、59%の国民は「武器を持って戦う考えはない」と答えている。「戦う」19%と「おそらく戦う」19%を合わせても38%の国民しか「武器をもって戦う」と答えていない。
世論調査の結果はその時のトレンドを理解する上で役立つが、矛盾する結果が出てくることもあるし、出てきた数字をどのように解釈するかによって全く異なった受け取り方も可能だろう。ドイツ国民は地理的に近いこともあってロシア軍のウクライナ侵攻をシリアスに受け取っている。徴兵制の重要さは次第に国民に理解されてきていることが分かる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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