十代の若者からは「チーズ」「尿」のようなにおいが発せられている
実験と分析の結果、研究チームは、赤ちゃんと若者の体臭を42種類の成分に分類することができました。
すると意外なことに、乳児グループと若者グループでは、体臭の化学組成がかなり似ていることが分かりました。
では、体臭に大きな違いを生じさせている物質はなんなのでしょうか?
乳児グループ固有の成分としては、「α-イソメチルイオノン」と呼ばれる化合物がかなり高い濃度で検出されました。
この化合物は「スミレ」のような香りを発するため、赤ちゃんのいいにおいは、ここから来ている可能性があると分かりました。
一方、若者グループからは、様々な種類のカルボン酸が高濃度で検出されており、評価者たちは、これを「土臭い」「カビ臭い」「チーズ臭い」と表現しました。
また若者グループからは、乳児グループには含まれていない成分として、他にも2種類のステロイド化合物「5α-androst-16-en-3-one」「5α-androst-16-en-3α-ol」が検出されています。
これらの成分は人間の嗅覚からは、それぞれ前者が「汗」「尿」「じゃこう」のようなにおいだと表現され、後者は「じゃこう」「白檀(ビャクダン)」のようなにおいだと表現されたようです。
「じゃこう」「白檀」と言われても、なんなのかピンとこない人も多いかもしれませんが、「じゃこう」はオスのジャコウジカ(シカに似た動物)の腹部にある腺から得られる分泌物を乾燥させたものです。
香料や生薬の一種として用いられ、「ムスク」とも呼ばれています。ジャコウジカは、このにおいでメスを引き寄せたり、縄張りを示したりするようです。元々のにおい自体は、アンモニア臭と獣臭が混ざった不快な臭いだと言われていますが、それを乾燥させることで嫌な臭いが薄れ、甘い香りへと変化するようです。
また「白檀」とは、インド原産の熱帯性常緑樹であり、甘くてエキゾチックな香りがすると言われており、線香にもよく使われます。
「じゃこう」と「白檀」だけであればそこまで不快なにおいではなさそうですが、若者特有のにおい物質は、そこに尿が加わったような独特のにおいになります。
研究チームは、「十代の若者に特有ないくつかの成分が、その体臭を不快にさせている」と考えています。
この結果は、十代の若者をターゲットにした消臭製品を生み出すのに役立つと考えられます。
悪臭のもとになる成分を明確にし、これを打ち消す製品が作れれば、何らかの香料で誤魔化すような方法を取らなくても不快な体臭を抑えられるようになるかもしれません。
しかしなぜ、成長とともに人の体臭は変化していくのでしょか?
これに関して、まだ仮説の段階ですがある科学者は、「乳児のいいにおいには、親の愛情と保護を促進させる働きがあり、十代の若者の嫌なにおいは、親との近親交配を防ぐのに役立つ可能性がある」と述べています。
その考えからすると、「なんでもかんでも消臭すればよい」わけではないと言えますね。
そのため研究チームは、乳児や若者のにおいが親に与える影響をより詳しく理解するために、さらなる研究が必要だと指摘しています。
参考文献
Researchers explain the dissimilar smells of babies and teenagers
Why babies smell nice but teenagers smell like goats
元論文
Body odor samples from infants and post-pubertal children differ in their volatile profiles
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。