地球人「そっちは今、何時?」
月面人「ちょうど12時を回ったとこだよ」
そんな会話が近い未来に交わされるようになるかもしれません。
アメリカ合衆国科学技術政策局(OSTP)は今月2日、地球時間とは別に「月の標準時」を作るようNASA(アメリカ航空宇宙局)に要請したと報じました。
月の標準時は2026年末までの導入を予定しているとのこと。
しかし、なぜ月専用の時間が必要なのでしょうか?
なぜ「月の標準時」が必要なのか?
時間の進み方は「重力」によって左右されます。
これはアインシュタインの提唱した一般相対性理論で説明されている現象です。
この理論によると、重力が強い場所では時間が遅く進み、重力の弱い場所では時間が速く進むと考えられています。
この現象は実際に、地球内という小さな範囲でも確認されています。
スカイツリーは地上より10億分の4秒速く時間が流れていたことが判明
例えば、山の麓(ふもと)と山の頂上では、頂上の方がわずかながら重力が小さいため、時間の進み方が麓よりも若干速くなっているのです。
その差は私たちの体感ではわからないほどの微差でしかありませんが、非常に正確な時計を使うとその差がちゃんと測定されます。
そしてこれと同じ現象が地球と月の間にも起こっているのです。
月は地球よりも重力が小さいため、時間の進み方がわずかに速くなります。具体的には1日あたり約58.7マイクロ秒ほど速くなっているという。
もちろん、これは生身の人間からすれば何の差にも感じられません。
ところが、月面探査や月周回ミッションといった宇宙活動で利用されるシステムは極めて厳密な時間で動作します。例えば、今や誰もが利用しているGPSは、先程述べた一般相対性理論による時間のズレを組み込まなければ正確に動作しません。
もしわずかでも時間のズレがあると、月面探査や月周回軌道上での位置特定やマッピングに失敗する可能性があるのです。
そこで地球で使用される「協定世界時(UTC)」とは別に、月面やその周辺での活動で指標となる「協定月時間(Coordinated Lunar Time:LTC)」が必要と考えられるのです。
特に今後は宇宙開発の急速な進展にともない、月面での活動も増えていくことが予想されます。
直近のミッションとして最も注目されるのは、人類を50年以上ぶりに月に帰還させる「アルテミス計画」でしょう。